純情 梶原一騎(いっき)正伝 小島一志著

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純情

『純情』

著者
小島 一志 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103014553
発売日
2021/02/25
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

純情 梶原一騎(いっき)正伝 小島一志著

[レビュアー] 内田誠(ジャーナリスト)

◆「強面」像の修正もくろむが…

 『あしたのジョー』や『巨人の星』など「スポ根もの」と称されるジャンルを確立し、漫画原作者としてその名を知られた梶原一騎こと高森朝樹の「正伝」と銘打たれている。梶原といえば、どこから見ても堅気とは思えない強面(こわもて)にサングラス姿を想像されるだろう。著者は、さまざまな逸話に彩られ、暴力のイメージで覆われた「梶原一騎像」を本書で修正しようともくろんだようだが、その目的は果たされただろうか。

 著者は極真空手関係者を中心に、梶原にゆかりの人物を取材し、その証言を軸に本書を構成しているが、再現部分や引用との混在で、取材の成果が不分明になったうらみがある。話の中には当然、極真空手の創始者・大山倍達(ますたつ)や弟子たちも登場。また、梶原を「アーちゃん」と呼んで溺愛したとされる母、その母と折り合いが悪かったとされる妻などにも筆が及んでいる。

 重要なのは、梶原を六十日間にわたって取り調べた警察官、亀澤優の証言だ。亀澤は手記の中で「素顔の梶原さんは正義感と人間愛にあふれ、懐の深い大きな人物」と評し、「私が梶原一騎に抱いた畏敬・敬慕の念は一生消えることはない」とまで語っている。亀澤の言葉を疑いはしないが、この感想と現実に起こったことの間には懸隔がある。

 梶原の事件は四つ。東京の銀座のクラブで同席していた編集者を殴った事件と、赤坂のクラブでホステスを殴った事件。そして暴力団員と共にアントニオ猪木を監禁し脅迫したとされる事件など。これらはすべて「別件」で、当初警察は、梶原を芸能界に広がる麻薬・覚醒剤ルートの元締と見て追及。疑いは妻にも向けられたが、覚醒剤の件は立件に至らず、マスコミが作り上げたイメージが固定化したという理解かと思われる。

 だが、著者が描き出した監禁・脅迫事件の詳細を読めば、サディスティックな要素てんこ盛りの「梶原作品」をまるで実写版で鑑賞しているような気持ちになる。残念ながら、評者の場合、「梶原一騎像」に修正を施す必要は感じなかった。

(新潮社・1760円)

1959年生まれ。作家。共著『大山倍達正伝』『芦原英幸正伝』など。

◆もう1冊

梶原一騎著『懺悔録』(幻冬舎アウトロー文庫)。スキャンダルも大胆に告白した自伝。

中日新聞 東京新聞
2021年5月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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