<東北の本棚>コメ作りに挑む姿追う
[レビュアー] 河北新報
秋田県大潟村は1964年、琵琶湖に次ぐ広さを誇った湖・八郎潟を干拓して誕生した。日本人の主食であるコメを増産するため、20年もの月日と850億円を投じた国家プロジェクトとして整備された「モデル農村」だ。本著は猫の目のように変わる農業政策に翻弄(ほんろう)されながら、コメ作りに挑む村の変遷を丹念に追った。
厳しい審査を通過して全国から集まった入植者たちは、10~40代の若者たち。郷里の家財を売り払い、退路を断った者も多かった。それだけ大規模農業で最先端のコメ作りができる新しい大地は魅力的だったのだ。だが、コメ余りで状況は一変し、減反政策で「青刈り」を余儀なくされる。
村は減反に従い畑作に取り組む食糧管理法順守派と、過剰作付けを行ってコメの売り先を開拓するヤミ米派に分かれた。ページを繰って感じるのは、どちらも方向性は違えど「うまいコメを作って生きる」という信念があったことだ。「収入が減ってでも国に従うのは、将来の日本の農を守るため」。順守派の悲痛な訴えが胸を突く。
95年の新食糧法施行で、コメの流通は自由になった。国に従った順守派ではなくヤミ米派の意見が取り入れられた形だが、コメ農家を取り巻く環境が好転したとは言い切れない。米価は下落や横ばい基調が慢性的に続いているのが現状だ。著者は家族的営農の推進や国による生産者の保護、作物を高級化するなど所得向上のための努力が必要だと提言する。
著者は近畿大教授で、環境民俗学の現地調査に力を入れる。本著は2006年までの調査・取材を元に執筆された。減反廃止や環太平洋連携協定(TPP)参加など農政は新局面を迎えている。大潟村の現在や未来像についても続編を期待したい。(長)
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ナカニシヤ出版075(723)0111=2090円。