技能実習生は“現代の奴隷制度” 外国人材を喰い物にする日本

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「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本

『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』

著者
安田 峰俊 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784041069684
発売日
2021/03/02
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

技能実習生は“現代の奴隷制度” 外国人材を喰い物にする日本

[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)

「低度」外国人材とは、著者の造語だ。「(年齢は若いかもしれないが)学歴・年収が低く、日本語はろくに喋れず専門知識もない、非熟練労働に従事している」人たちを指すという。日本政府が積極的に海外から招きたい外国人材は、専門的な技能や知識を有する高度人材だが、実際に来日している人たちの多くは、この「低度」外国人材だ。

 とくに技能実習生の現状は、劣悪な待遇に置かれ、現代の奴隷制度と国際的にも批判されている。かなりの数の技能実習生は、職場から脱走し、不法滞在者になる。本当は働くために来た偽装留学生もまた多い。この人たちへの日本社会からの反応は、その境遇に同情する「かわいそう」か、あるいはナショナリズム的な「帰れ」の怒声かのいずれかだと、著者は指摘する。

 本書では、この「低度」外国人材に安易に同情すべきでない理由が描かれている。自国で働いた方がましなのに、ろくに調べもせずに来日したその軽薄さ、あるいは“情弱”さがまず問題だ。だが、その情報感度の低さにつけこみ、出国者に多額の借金を負わせる現地の「送り出し機関」、実体のない日本語学校、脅迫まがいの手法でブラックな生活環境に外国人を束縛する日本の「監理団体」など、もちろん構造的な問題も深刻だ。

 だが本書はさらに問題がややこしく根深いことを指摘する。つい10年ほど前までは、中国人の問題として、「低度」外国人材の問題はあった。だが今は、日本人に搾取される側だった中国人が、今度はベトナム人を食い物にする側に新規参入している。やがてはベトナム人も新たに来る外国人を鴨にするかもしれない。この状況を野放しにしている日本を「移民焼き畑国家」と著者はするどく批判する。

 もちろん、例外的な事例をとりあげているだけだという批判はありうる。多くの技能実習生や留学生は本書に描かれた世界とは無縁のはずだと。いやそうではない、実際にはちょっと運が悪ければ、そのまじめな人たちもこの「焼き畑」の中に投げ込まれるかもしれない、と著者はいいたいのだろう。

 本書では、日本社会がいかにチャンスを新参者たちに与えないかも示されている。日本語学校に行っていないがゆえに大学に合格できないだけで、「高度」に日本語を操れる中国人の話は象徴的だ。実力よりも形式を異様に重んじる日本社会。しかもその形式さえも腐敗している。「低度」とは外国人材の受け入れを真剣に考えていない日本のレベルを指しているのだ。

新潮社 週刊新潮
2021年5月20日夏端月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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