土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎 竹倉史人著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

土偶を読む

『土偶を読む』

著者
竹倉史人 [著]
出版社
晶文社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784794972613
発売日
2021/04/27
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎 竹倉史人著

[レビュアー] いとうせいこう

◆収穫物の似姿をキャラ化?

 周囲の植物から新芽が噴き出す頃、同時に茎からは鮮やかな葉が次々飛び出し、重力に抗するかのように尻を天上に突き立てて伸びる。これは春にしかない形で、素人園芸家の私などは見ると体中の血が沸き立つように感じる。

 縄文時代の人々も、それが収穫に直接結びついているからには、興奮をより強く持っただろうと思い、いわゆる火焔(かえん)式土器は火ではなく葉や蔓(つる)の萌(も)えいずる姿をあらわす「春のウキウキ式土器」だなどと勝手に主張してきた。

 自分でも決して間違いでないと実感してきたこの説が、一人の人類学者によって肯定される日も近いかもしれない。というのも今般、縄文時代の土偶のあれこれが、植物及び貝類(つまり縄文人にとっての重要な食物)をかたどった、いわばフィギュアであるという衝撃的に面白い本が出てしまったからだ。

 これまでひたすら妊娠した女性の、豊饒(ほうじょう)を象徴するとばかり言われてきた土偶のそれぞれ特徴的な模様や形状が、実は制作年代の出土地域に一般であった栗に似ていたり、貝そのものであったりする。

 しかもそうした切実な収穫物の似姿に、縄文人は手足を付けて人間化したと著者は言う。ここが最重要ポイントだ。なぜなら、現在我々がこの列島で日々目撃している「ゆるキャラ」こそ、縄文人が何かに祈ったり遊んだりした時のメディア(媒体)そのものだということになるからだ。つまり何千年を経ても、我々の感覚は変わっていなかったのだ。

 かつて一九五〇年代、岡本太郎が芸術家の思考で、しかもイギリスの人類学者フレーザー『金枝篇』をしっかり援用して縄文に光を当てた。同じように今、考古学者を挑発しながら(そこはちょっとやり過ぎの感もあるのだけれどw)、日本の人類学者が新説をまとめた。

 論争は当然起きるだろう。むしろ無視されずにそうなってほしいと思う。なぜなら岡本太郎の時も日本人の縄文への興味が深まったからだし、論争から実り多い結果が必ず収穫されるだろうからだ。

(晶文社・1870円)

1976年生まれ。人類学者。著書『輪廻転生 <私>をつなぐ生まれ変わりの物語』。

◆もう1冊

岡本太郎著『日本の伝統』(知恵の森文庫)

中日新聞 東京新聞
2021年6月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク