「嫌中」の日本にやって来て、事業を成功させる辣腕ぶりに感動

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「嫌中」の日本にやって来て、事業を成功させる辣腕ぶりに感動

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 数年前まで、書店の店頭には嫌中、嫌韓本があふれていた。一流と言われる出版社までも名を連ねていた。

 中国は名実ともに大きくなり、今やアメリカを脅かす存在で、貿易に関して米中戦争と言われている。

 日本においては尖閣諸島を巡り対立、そして日本人の一部はいまだに新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」と呼び続ける。

 そんな中、日本へやって来て、なおかつ事業を成功させた中国人がいる。考えてみれば、中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、日本もまた中国にとってアメリカに次ぐ貿易相手国なのだから、民間の交流はごく当たり前のことなのだが。

 最初に登場する謝端明氏の仕事に興味を引かれた。「最先端デバイス『骨伝導イヤホン』の“スーパープロモーター”」との肩書きであるが、そもそもの骨伝導技術というのが素晴しい。「従来のイヤホンは、空気を伝って内蔵スピーカーの形で音声を再生するが、骨伝導技術では骨を通してスピーカーやラジオの形で音を再生する」というもの。

 難聴に苦しんだかのベートーベンがその原理で再び音楽を楽しんだという。ピアノに取りつけた指揮棒を噛み、顎の骨から伝わる音楽を聞き取ったのだ。

 聞こえに不安のある人の聞こえにくさには様々あり、少し聞こえる、まったく聞こえない、片方の耳が不自由、両方の耳が不自由……。彼ら数百人を対象とした試聴会の模様を謝氏が語る。「彼らが静寂の世界から音のある世界に入った瞬間を目の当たりにし、私たちは感動しました」と。

 それらを発展させ、「二〇二〇年七月、世界初・完全ワイヤレス骨伝導イヤホン/PEACEシリーズが日本全国の大手家電量販店で発売開始となり、話題を呼んだ」がコロナが蔓延していたのである。

 他の13人の奮闘ぶりも見事で、それぞれのコロナ対策への追加取材もあり、読み応え十分である。

新潮社 週刊新潮
2021年7月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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