『大津波と里浜の自然誌』
書籍情報:openBD
<東北の本棚>よみがえる植生の記録
[レビュアー] 河北新報
藩制時代に由来するクロマツ海岸林が地域の象徴だった仙台市宮城野区岡田の新浜地区。東日本大震災からの10年を、目覚ましい植生回復の記録を中心にたどった。自然のたくましい姿に、復興に取り組む人々の営みが映し出されているようだ。
東北学院大などの研究者や住民、市民団体関係者が2011年6月から、仙台湾岸の生態調査と復興まちづくり支援活動を展開。10年に及ぶ現場の知見をまとめた。
クロマツ海岸林は17世紀半ばに仙台藩が植樹したのが始まり。仙台藩の藩有林台帳によると、「須賀原黒松御林」と呼ばれ、1673~81年ごろに植えられた。以後、連綿と造林が続けられ、地区に「愛林碑」が立つ。住民がたきぎや落ち葉を分け合う暮らしの場だった。クロマツ林を含む里浜は、海と陸が出合う境界領域を意味する「海岸エコトーン」と呼ばれ、本書ではエコトーンをキーワードに自然と共生する地域再生を描いている。
クロマツの多くが津波になぎ倒されたが、震災の数カ月後にはイヌビエなどの1年生草本が成長した。土の中で休眠状態だった種子が、砂泥と一緒に巻き上げられたとみられる。翌年の調査では、地上部が枯れたように見えた低木の根に新しい幹が芽生えた。食物連鎖のピラミッドの上位に位置するタヌキも、震災から2年で戻った。
宮城県沿岸各地で被害を受けたハマナスは津波に耐えて群落が残った。ハマナスは防潮堤工事による影響が懸念されたが、国との協議で防潮堤を内陸に移動させ、保全が図られた。
何より、照徳寺の樹齢約370年の大イチョウが震災を生き延びたことが住民を鼓舞したという。自然とともに生きてきた人々の心を物語るエピソードだ。(会)
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蕃山房090(8250)7899=1400円。