「ギャン泣き」は成長の証!? 親にとっては悪魔でも子どもの脳には大切な“悪い子”という時期

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子どもの脳の成長は、学力向上のためだけではなく、精神面の安定からも大切です。今回は、少しずつ反抗的になったり、感情を爆発させたりする子どもに対する理解と対応を、小児科医の奥山力さんの書籍『小児科医が教える 子どもの脳の成長段階で「そのとき、いちばん大切なこと」』から紹介します。

※本記事は、本書の一部を編集のうえ抜粋したものです。

なぜ、子どもにとって“悪い子”の時期も大切なのか

“悪い子”の時期も大切なんていうと、「どうして自分の大切な子どもを悪い子に育てなければいけないのか?」と疑問を持たれるかもしれません。「悪い子に育てることになんの意味があるのか?」と考えてしまうのも当然です。しかし“悪い子”というのは、子どもの脳の成長にとって非常に重要な視点なのです。

「未熟脳と成熟脳のちがい」として、脳のネットワークは1対1ではなく、多くのネットワークが同時に多角的につながるところからスタートします。それ以外にも脳のネットワークには、機能的な特徴があります。

基本的な脳のネットワークの構造は、そのネットワークを「促進するネットワーク」と「抑制するネットワーク」から成り立っており、お互いに制御するようにできています(図1 =本書P.31より)。


図1 未熟脳と成熟脳のちがい

しかし「成熟脳」では本来抑制系に働くネットワークが、幼児期の「未熟脳」では促進系に働くのです(GABA回路)。そのため、専門的にいえば、現時点では制御できなくなっている脳のネットワークを残しておくことが、「成熟脳」に成長したときに抑制系がしっかりと機能するようになるということがわかっています。

つまり、幼時期の子どもが「ギャー!」となるのは、多角的なネットワークの広がりでできている成長の証でもあります。子どものギャン泣きを認めてあげることで、より理性的な人間に成長するチャンスが与えられるということなのです。

厳しい対応は、脳のネットワークの成長を弱めてしまう

逆に、「未熟脳」の子どもに対して、虐待をふくむ厳しすぎる不適切な対応をしてしまうと、ネットワークのつながりが粗雑になってしまいます。結果的に、感情のコントロールなどの抑制系のネットワークが成長しにくくなってしまいます。つまり、感情を自分で抑えたりすることが難しくなるのです。

虐待をふくむ厳しすぎる不適切な対応をして、子どもを従わせるような関わりをつづけることで、一見すると“よい子”をつくり上げてしまっても、一時的なものにすぎず、脳の抑制系のネットワークの発達は弱くなっていきます。さらには、脳のネットワーク自体の広がりさえ粗雑になってしまう、という大きな問題を抱えてしまうことになるのです。

そうすると、前頭機能が発達して自我の芽生えが高まる思春期になると、感情や行動の制御が難しくなり、まだ身体の小さな幼児期とは比べものにならないほどの激しい混乱の時期を迎える可能性が高くなってしまうのです。

思春期は、本来は脳の成長の時期なので、私は「反抗期」ではなく、脳の「第二成長期」だと考えています。このころまでに「自分の視点」を尊重されながらすごす体験を繰り返していた子どもは、それほど激しい反抗はなく、プチ反抗くらいですごせます。

けれども、幼児期から思春期まで“よい子”ですごしていた子どもの混乱は、並大抵のものではありません。養育者に向けての激しい言動や攻撃、そして自分に向けての自傷行為などと激しく表出されることもあります。

だからこそ、子どもの成長は、ある一時期の「点〈結果〉」でみるのではなく、「線〈過程〉」で、さらにいえば「立体的〈変化〉」にみてほしいのです。

「未熟な段階」を認めることが、のちのちの成長につながる

ときに悪魔のように思える“悪い子”の時期であっても、そのわがままのなかに、おだやかに育つ大きなカギが隠されています。なかなか親のいうことが聞けない子どもでも、その「未熟な段階」を認めながら、しっかりと成長を見守ってあげる視点が、のちのちの成長につながります。おだやかな自己コントロールのしやすい脳の形成には、非常に重要なことなのです。

そうはいっても、人前で「ギャー!」となってしまう子どもを前に、何もしないで無視しているような態度をとりつづけることは、親にとって非常に難しいことです。そこで「環境は制限しても行動は制限しない」ということを心がけてみてください。

子どもにとっては「できない場面」で責められるより、今はまだその場所に行かないほうが伸び伸びとすごせて、脳のネットワークの成長にもつながります。「子どもの視点」を尊重し、それぞれの成長段階に合わせた対応が大切なのです。

奥山力(おくやまちから)
1962年生まれ。秋田大学医学部卒業。東北大学医学部小児科学教室入局。国立病院機構仙台医療センター小児科勤務。東北大学加齢医学研究所発達病態学研究分野大学院にて小児血液疾患・免疫疾患・EBVAHSの研究。東北大学病態病理学講座免疫学教室にてX-SCIDの遺伝子治療の研究。土屋小児病院(埼玉県久喜市)にて小児心身症・発達障害・愛着障害の臨床。現在、埼玉県白岡市にて奥山こどもクリニック開業。埼玉県立総合教育センター・教育相談スーパーバイザー、子ども支援ラプシー研究会主催、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本スポーツ精神医学会メンタルヘルス運動指導士、日本医師会認定健康スポーツ医、日本小児精神神経学会認定医、日本小児心身医学会認定医。

奥山 力(小児科医)

日本実業出版社
2021年7月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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