『国民義勇戦闘隊と学徒隊 隠蔽された「一億総特攻」』
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国民義勇戦闘隊と学徒隊 隠蔽された「一億総特攻」 斉藤利彦著
[レビュアー] 松竹伸幸(ジャーナリスト・編集者)
◆驚くべき精神主義の実態
「職域」という馴染(なじ)みのない言葉がコロナ禍で普通に使われるようになったが、本書が扱う「国民義勇戦闘隊」も職域などにつくられたそうだ。それがどうしたと言われそうだが、第二次世界大戦末期に国民を「一億特攻」(実際に軍部が使った言葉)に駆り立てた政治の過ちを掘り下げる本書のテーマは、現在のコロナ禍での政治の問題に妙に突き刺さってくる。宝島社が五月に出して話題になった新聞全面広告が「タケヤリで戰(たたか)えというのか。このままじゃ、政治に殺される」とうたっていたことも、本書による当時の非科学的な精神主義の告発が過去のものではないことを示しているようだ。
この広告の趣旨が誰にも理解されたように(賛否は別として)、戦争末期、連合国軍の本土上陸に備え、高齢者も子どもも女性もが竹槍(やり)を持たされて訓練した事実は多くの人が知っている。学校で軍事訓練が行われたことも同様である。関連書籍も少なくない。本書の特徴は、一九四四年八月以降に進められた「国民総武装」の政府方針の展開、職域、地域、学校(名称は学徒隊)の現場における具体化の実態を詳細に明らかにし、系統的に整理したことにある。国民義勇戦闘隊は軍事組織だったため、戦争直後に関連資料は組織的に焼却されたのだが、著者は日本各地の役場などを渉猟して発掘した。その資料のリアルさが本書の意義を確かなものにしている。
驚くべきはまず数の多さ。熊本では全住民約百五十三万人中約六十四万人が組織されたという。実に41・8%だ。さらに驚愕(きょうがく)するのは精神主義。「体当たり精神に徹すべし」という兵士に求める「決戦訓」が、義勇隊に入りたての老若男女にも強要される。敵前逃亡は死刑だ。武器(「個人兵器」というそうだ)は「短刀、脇差(わきざし)、包丁、鎌、鉈(なた)」などで自分で用意しなければならない。米軍戦車を「肉薄攻撃」するやり方は図解で教えられる。
これ以上の解説は不要だろう。精神主義の政治をくり返してはならないと諭し、説得力を持って理解させてくれる好著である。
(朝日選書・1650円)
1953年生まれ。学習院大教授、教育学。著書『試験と競争の学校史』など。
◆もう1冊
斉藤利彦著『明仁天皇と平和主義』(朝日新書)