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- 「論理力の基本」トレーニングブック
- 価格:1,430円(税込)
「自分の考えをうまく説明できない」「相手に伝わらない」――誰もが一度はこうした悩みを抱えたことがあるのではないでしょうか? それはコミュニケーション能力の問題ではなく、「論理的」に会話が成り立っていないことが原因かもしれません。では、そもそも「論理的」とはどういうことでしょうか。論理パズルや論理思考力に関する著作を手掛ける小野田博一さんによれば、「実は、多くの人がその意味を正しく理解していない」といいます。あなたの伝える力をアップする論理的な会話術を紹介します。
※本記事は『「論理力の基本」トレーニングブック』(小野田博一・著)を再編集しています。
「論理的」でないとはどういうことか
日本人の発言や記述は、論理性が(少なくとも外見的に)損なわれていることがよくあります。それは主に、日本の独特な発言習慣や記述習慣からきています。
例を1つ挙げましょう。宅配便で荷物を送ろうとしている人Aと、コンビニの店員Bの対話です。
店員B「明日の配達になります。配達時間の指定はどういたしますか?」
荷主A「午前中は可能ですか?」
店員B「では、午前中にいたします」
これは、日本では非常によくあるパターンの対話ですね。 この対話が論理的には変だということが、あなたはわかりますか?
多くの人は、どこが変なのか、わからないでしょう(もしあなたがすでに気づいていたり、いま考えてみて、変であることがわかったのなら、あなたは十分論理的です)。
答えを明かせば、Bの発言が変なのです。Aは可能かどうかを聞いているのであって、「可能なら午前中にしてください」と言ったのではありません。 BはAの発言を「可能なら午前中にしてください」に勝手に置き換えて、それに対して返事をしています。
論理的な発言をしたいのなら、Bは「はい(可能です)」とだけ答えて、Aの意思決定(発言「では、そのようにしてください」など)を待つか、「はい(可能です)、そのようにいたしますか?」と述べるのが正しいのです。
「説明的すぎる」ほどよい!?
では、例をもう1つ挙げましょう。会議終了後、とくに意見もなく、その会議ではなにも発言しなかった社員AとBが交わした、エレベーターホールでの会話です。
社員A「プランDはまずいんじゃないかな」
社員B「うまくいかなかったら社長がなんとかするだろ?」
こういった他愛ない日常会話はよくあります。フォーマルな場で理詰めのディスカッションをしているわけではないので、日本では、日常的にはこれで『全然OK』ですね。
それとは話は別ですが、この例は「論理」という点を考えるためにはいい題材なので、これを論理の面から見てみましょう。この対話は論理的にはどうでしょう? ──はい、ムチャクチャです。それがわかりますか?
ざっと概略を書くと、以下の通りです。
Aは、プランDがまずいと考える理由を述べていません。またBは、Aの質問に答えていません(プランDがまずいか否かに関してなにも述べていません)。答える代わりに予想を述べていますが、そのように予想する理由を述べていないのです。
また、Bの発言には言外に「プランDがまずくても大した問題ではない」がありますが、それは言外にとどまり、明言されていません(Bはそのように考えているので、プランDがまずいか否かに関して述べることを省略してしまっています。『うまくいかなかったら社長がなんとかするだろ?』と述べることで「プランDがまずくても大した問題ではない」の意は伝わるだろう、と思うがゆえの省略です)。
では、論理性の高い人たちなら、この他愛ない対話がどのようになるかを考えてみてください。あなたが思いつく対話例は、どのようになりますか? 論理性の高い人たちの場合は、たとえば、以下のとおりです。
〈論理的な対話例〉
社員A「プランDはまずいんじゃないかな、▽▽だから」
社員B「僕はそうは思わないな、▲▲だから。
それに、仮にまずくても大した問題じゃないよ。
うまくいかなかったら、社長がなんとかするだろうさ。
いつも社長はそうしてるからね」
これで最高に論理的といえるほどのものではありませんが、論理面では、前述の欠陥はなくなり、まあまあの及第点、といったところでしょう(フォーマルな場でのディスカッションではありませんから、これで十分でしょう)。
もっとも、最高に論理的といえるレベルではないとはいえ、日本語の「表現を徹底的に省略」の習慣に深くなじんでいる人には、これでは「くどい」とか「説明的すぎる」という風にしか感じられなくて、このような対話をしたくないと思う人は多いかもしれませんね。
でも、これが論理的な(論理性の高い)対話なのです。──つまり、「くどい」とか「説明的すぎる」と思う人たちは、その思いを克服し、くどく、説明的すぎるほどでありましょう、ということです。
まず「論理」とはなにかを知る
多くの人は「論理」とはなにかを知りません。漠然とわかっている気持ちになっているだけです。それで、発言する際、その発言の論理が正しいかどうかを考えもしませんし、正しいか否かを判定しようとは思いません──いえ、それ以前に「発言の論理が正しいか否かは判定可能である」ということを知らないのです。
「論理的」に関しても同様で、多くの人は、論理的であるとは、どういうことなのかを知りません。漠然とわかっている気持ちになっているだけです。それで、発言中に「論理が正しくない部分」や「論理的でない部分」が、ちらほらと、あるいは、ふんだんに紛れ込みます。
論理的な発言をするためには──発言中に「論理が正しくない部分」や「論理的でない部分」が紛れ込まないようにするためには──「論理」や「論理的」に関する十分な理解が必須です。
それを省略して、表面的なコツやテクニックで済まそうとしてもダメです。コツやテクニックはなく、理解がすべてだからです(ただし、発言したり、文章を書いたりする際に注意すべき点はあるので、その注意点をコツやテクニックとよぶことはできます)。
そういうわけで、論理的に考えたり、話したりできるようになるには、まず「論理」とはなにかを知ることが肝要なのです。
小野田 博一(おのだ ひろかず)
東京大学医学部保健学科卒業。同大学院博士課程単位取得。大学院のときに2年間、東京栄養食糧専門学校で講師を務める。日本経済新聞社データバンク局に約6年勤務。ICCF(国際通信チェス連盟)インターナショナル・マスター。著書に『論理思考力を鍛える本』『数学<超絶>難問』『数学<超・超絶>難問』『古典数学の難問101』『論理的な小論文を書く方法』(以上、日本実業出版社)、『13歳からの論理ノート』『13歳からの勉強ノート』『数学難問BEST100』『13歳からの英語で自分の意見を伝える本』(以上、PHP研究所)、『超絶難問論理パズル』『人工知能はいかにして強くなるのか?』(以上、講談社)などがある。
小野田博一
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