日本大空襲「実行犯」の告白 なぜ46万人は殺されたのか

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ルメイの蛮行には「動機」があった

[レビュアー] 鈴木冬悠人(報道番組ディレクター)


半世紀ぶりに発掘された将校ら246人の肉声テープが浮き彫りにする「日本大空襲」の驚くべき真相

鈴木冬悠人・評「ルメイの蛮行には「動機」があった」

半世紀ぶりに発掘された将校ら246人の肉声テープが浮き彫りにする「日本大空襲」の驚くべき真相に迫った新書『日本大空襲「実行犯」の告白―なぜ46万人は殺されたのか―』が刊行。「なぜ日本は焼き尽くされたのか」「“悪魔の兵器”はこうして誕生した」の番組に携わった報道番組ディレクターの鈴木冬悠人さんが執筆した本作にはどんな内容が書かれているのか、その一部を紹介する。

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 今から76年前、日本は焼け野原になった。終戦までのわずか1年足らずの間に、アメリカ軍の無差別爆撃で46万人の命が奪われた。当時、日本の敗色は濃厚だった。それにもかかわらず、なぜ、あれほどまでに徹底した爆撃が行われたのか。

 以前、「なぜ日本の文化財は戦禍を免れたのか」について取材をしたときから不思議に思っていたことがある。アメリカ軍には、文化財保護を目的とした部隊があり、日本の貴重な文化財を空爆しないように進言し、その保管場所100カ所以上をリストにまとめ上げていた。敵国の文化財に気を配れるほど余裕があったのかと驚くとともに、なぜ人の命は大切にされなかったのかと大きな疑問が湧いてきたのだ。

 その答えを知るための手がかりが、アメリカで見つかった。軍内部で行われた聞き取り調査の音声記録である。証言者は、空軍将校246人。時間にして300時間を超える。半世紀ぶりに封印が解かれた将校たちの「肉声テープ」を再生してみると、本音や思惑が赤裸々に語られていた。

「空軍にとって戦争は素晴らしいチャンスだった」「航空戦力のみで日本に勝利できると示す必要があった」「陸・海軍に空軍力を見せつける」……。

 表向き「正義と人道」を掲げて戦っていたはずのアメリカ。だが、空軍将校たちが語っていたのは、それとは全く異なる空軍独自の目論みだった。当時、陸軍の傘下に置かれていた彼らは、無差別爆撃の舞台裏で、アメリカ軍内部で“独立する”という野望を掲げていた。日本空爆の戦果は、それを実現するための足がかりだったのである。

 空軍将校が遺した肉声をひもといていくと、東京大空襲の“首謀者”として悪名高いカーチス・ルメイ司令官も、空軍独立のための駒にすぎなかったこともわかってきた。その背後には、無差別爆撃を周到に準備し実行を指示した空軍トップ、ヘンリー・アーノルドの存在が浮かび上がる。そして、史上最悪とも言える日本への無差別爆撃につながる空爆戦略を生みだしたのは、アーノルドが師と仰ぐ、一人の将校だった。この男は、真珠湾攻撃を17年前から予想していたほどの卓越した戦略眼の持ち主だったが、第二次世界大戦前に死んだ。だが、その思想は空軍内部で教義として今も脈々と受け継がれているのだ。

 一つ一つの証言がパズルのピースとなり、これまで謎に包まれていた日本への無差別爆撃の内幕が徐々に明らかになっていく。思うような成果が出せず、倒錯していく空爆作戦。当初の戦略から逸脱する命令に、現場の指揮官も追い詰められていった。

「私の手を握ってくれる人は誰もいなかった。結果を出さなければクビになる。それはそれは孤独なものだった」(カーチス・ルメイ)

 東京大空襲をはじめとする、日本空爆の知られざる真相に迫った。


空襲後の東京の街

新潮社 波
2021年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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