【児童書】『ふしぎな月』富安陽子文、吉田尚令絵(理論社)どんな場所も包み込む光
[レビュアー] 渡部圭介
「そらに まあるい ふしぎな 月が のぼりました」。そんな一文で始まる月の絵本。光を浴びた昆虫は妖精に姿を変え、種は芽吹いて花を咲かせる。魚たちは躍動し、海と空がつながって夜空を泳ぐ。寝静まる街の空には赤ちゃんが浮かび上がる。そうした空想の世界は、月が神秘的な存在であることを物語る。
その光は「とおいくに」で起きている現実を照らし出す。サバンナ、ジャングルに続いて、戦場の景色が登場する。続くページには、がれきの山の中でたたずむ子供たちの姿。彼らが見上げる空にも、月が浮かぶ。置かれた環境は違っても、見ている月は同じ。そんな暗い現実を、ふしぎな月は光で包み込む。
富安陽子の言葉と、吉田尚令(ひさのり)の絵が柔らかに、幻想的に描きあげる月の姿に、人々が月に魅せられるわけを知る。中秋の名月(21日)が近い。8年ぶりの満月となるその日、親子で本書を片手に夜空を見上げよう。「このよが やみに しずまぬように」という一文を、ささやきながら。(渡部圭介)