『甲子園は通過点です』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
多発的に始まった甲子園の「問い直し」
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
ここ十年ほどで、全国高校野球大会、いわゆる「甲子園」の雰囲気に変化が生じている。以前は、エースの連投も故障のある選手の強行出場もまちがいなく「美談」であり、蓄積した疲労は勝利への執念でねじふせるべきものとされていた。しかし近年は風向きが変わり、将来ある選手を十代のうちに壊してしまわないための配慮が見られるようになった。
関係者の発言からこの変化をたどったのが、氏原英明『甲子園は通過点です 勝利至上主義と決別した男たち』だ。「その選手が逸材であればあるほど、ここで将来の可能性を潰してはならない」という考え方と、「たいていの選手にとっては最後の晴れ舞台なのだから、どの選手もひとしくおのれを犠牲にすべし」という考え方の対立自体は、もちろんずっと以前からある。そこで膠着していた状況を、誰が、いかにして揺さぶったか。これは、日本のあちこちで多発的に始まった改革ドラマのレポートなのである。
日本高野連の反対は当然あると考えながら独自の球数制限導入に踏み切った、新潟県高野連。甲子園での最多勝利数記録をもつ前監督がなし得なかったことに挑戦する、智弁和歌山の現監督。「高校卒業後にメジャーに挑戦したい」という希望を口にした、天理高校のエース。高校野球のあり方を真剣に考える人たちが、それぞれの持ち場で「問い直し」を始めた。最近の読み物系新書のなかで出色の一冊だと思います。