【話題の本】『天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い』

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■信頼は一朝にしてならず

米中枢同時テロから20年、アフガニスタンからの米軍撤退に伴い、イスラム原理主義勢力のタリバンが再び国土を制圧した。現地情勢を深く理解しようと、アフガンで地道に活動を続けた日本人医師、中村哲氏の言葉が改めて注目されている。

テロとの戦いの中で銃弾に倒れた中村氏。「『信頼』は一朝にして築かれるものではない」。その信念の下、医療から干魃(かんばつ)対策の用水路事業へと奔走した半生を一冊にまとめた。随所で語る戦闘での体験には、この20年間の実態がにじむ。

国土に必要な事業は民主政権が崩壊しても必要だが、国家はどこに向かうのか。NHK出版によると、緊迫する情勢を受けて反響が高まり、昨年2月の13刷から20刷となり、累計10万部を超えることが決まった。

米軍の空爆開始から約1年後、取材で首都カブールを訪れたことがある。空き地でサッカーに興じる若者や国際治安支援部隊(ISAF)の兵士の笑顔を見て予想以上に空気が軽く感じたが、それは錯覚だったのか。欧米の民主主義とは異なる伝統と文化の一方で、価値観の多様化が社会の統合と衝突する時代。アフガンのいまに取り組む糸口がこの一冊にあるように思う。

蔭山実

産経新聞
2021年9月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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