<東北の本棚>故郷の民俗文化を俯瞰

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明治維新と宮城の芸能

『明治維新と宮城の芸能』

著者
笠原信男 [著]
出版社
河北新報出版センター
ISBN
9784873414164
発売日
2021/08/01
価格
880円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>故郷の民俗文化を俯瞰

[レビュアー] 河北新報

 宮城県に伝わる神楽や田植え踊りなどの民俗芸能を俯瞰(ふかん)する。明治維新を挟んだ芸能の近現代史を描く。前東北歴史博物館長の著者が長年の研究成果をまとめた労作だ。
 国指定重要無形民俗文化財「雄勝法印神楽」(石巻市)など修験道に発する法印神楽は、明治5(1872)年の修験道廃止で多大な影響を受けた。神道が国家宗教として統制された一環だ。神がかりや託宣が禁止され、神楽の中で託宣を聞く湯立神事は衰退した。半面、神事だった神楽に氏子の庶民も参加するようになり、祭礼のにぎわいが生み出された。源平合戦などを演じる劇舞があり、娯楽の側面が強い南部神楽は、明治時代に始まった団体が少なくない。
 明治維新は田植え踊りや鹿(しし)踊りにも影響を与えた。明治政府は地方行政制度を刷新、現在の大字にほぼ相当する旧村の合併を進めた。旧村単位で芸能を担ってきた若者組も解散し、青年団に移行した。村々が芸能を招き合う招待交流がなくなったり、芸能が廃絶したりした例もあった。「福岡の鹿踊」(仙台市)は一度途絶え、大正時代に復活した。「郷土芸術として残したい」という若者の思いが原動力となった。
 芸能と、時の権力の関わりは興味深い。江戸時代、仙台藩は田植え踊りを5人以下、鹿踊りを10人以下と人数を制限した。「秋保の田植踊」(仙台市)は演目の紹介中、早乙女は観客に背を向ける。「ここにおりませんよ」という所作とみられる。歌舞伎には黒子などの後見はいないものとして鑑賞する約束事がある。それを応用したのか定かでないが、政治の規制を骨抜きにする民衆の知恵がうかがわれるようだ。
 規制の影響はより身近に及んだ。宮城では盆踊りが行われず、明治に福島から入ったのが始まりとされる。読後、隠れていた歴史が躍動するのを感じさせる。(会)
   ◇
 河北新報出版センター022(214)3811=880円。

河北新報
2021年9月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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