<東北の本棚>いじめを巡る人間模様
[レビュアー] 河北新報
学園内でのいじめにスポットを当てたミステリー。「いじめを苦に自殺した」とされる男子高校生の死の謎が解き明かされる過程で、男子生徒が通っていた学校であったいじめを巡る人間模様、負の連鎖などが浮かび上がっていく。
1990年生まれの作者は盛岡市出身で現役の弁護士。今作が3作目の長編となる。弁護士は、主人公の女性ミステリー作家の恋人役などで作中にも登場。タイトルも法律用語に由来しており、登場人物が「刑法の有名な理論に、『原因において自由な行為』っていうのがあるんだ」と解説している。
主人公が作家ということもあり、物語は一部に作中作が挿入される。特に断り書きはない。だから、序盤は特に、戸惑いながら読み進めることになる。ちょっと不親切な構造だが、中盤以降は視界が開けて一気に読める。そして、序盤の不親切さゆえ、登場人物と一緒になって右往左往できる構成の妙味を味わえる。
いじめの描写は陰惨であり、生々しい。特定の誰かへの被害がなくなっても、標的は別の人物に移り、学園内のいじめはなくならないという厄介な問題にも触れる。登場人物の「いじめはウイルス」という言葉が印象に残る。
いじめ以外に「物語とは」「物語を書くとは」といったテーマも提示される。主人公は創作に行き詰まりを感じており、恋人の弁護士から、秘密裏に小説のヒントを提供してもらっている。他人の考えたプロットを自作として発表していいのかと煩もんを繰り返す。
「物語」は結局、謎を解明する上で重要な役割を果たす。点として分かっている事実を創作で補い、つなぎ合わせていく。「事実は小説より奇なり」というが、物語には物語の強みがある。作者の物語への強い思いが伝わってくる。(矢)
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講談社03(5395)5817=1815円。