『江戸・ザ・マニア』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【聞きたい。】浅生ハルミンさん 『江戸・ザ・マニア』 枯れたら趣味は続かない
[文] 産経新聞社
江戸時代から続く趣味文化の奥深い魅力を、その道の達人に聞いたルポルタージュだ。白黒のイラストが渋みを引き立てる。「おもと」「盆栽」「刀剣」。古色蒼然(そうぜん)とした印象があるが、枯れていたら趣味は続けられないという。
本書では子供心に気になっていた不思議な世界「おもと」から、「社長室に飾られがちなもの」の探訪が始まる。「うちのおじいさんの世代にもあって、それが今も人気があると感じていて、不思議だなって」
おもとは、葉の形や斑(ふ)の美しさを愛(め)でる観葉植物。高値で取引されるものもある。新種づくりに励む達人の温室を訪ねると、想像以上に理系の趣味だった。
自然石を鑑賞する「水石(すいせき)」の達人がドイツ人の収集する石に刺激を受け、古典奇術「手妻(てづま)」は観客の満足度を高める工夫がされている。「かしこまって一歩もずれてはいけない世界だと思っていましたが、アップデートしている。長く続くのは元の良さがあるから。基本を崩さず工夫すれば、もっと続けられる」
20代の頃にアルバイトをしていた古書店では、おもと園芸の本が充実していた。店主に才能を見いだされ、古書情報誌でエッセイストとしてデビュー。『私は猫ストーカー』が平成21年に映画化され、注目された。本も猫も好き。
「好きと言い続けると、周りの人がいろいろ教えてくれるから情報が集まる。『それを書いて』と頼まれて仕事になっていく」
おもとは気になりつつも素通りしてきたが、そろそろ50代という時期に素通りのままでは居心地の悪さを感じるようになった。
「実際に何をしているのか、ちゃんと知りたいと思いました」。常に頭の片隅にあったおもとも、編集者との会話がきっかけで仕事に結びついた。(淡交社・1980円)
寺田理恵
◇
【プロフィル】浅生ハルミン
あさお・はるみん イラストレーター・エッセイスト。昭和41年、三重県生まれ。名古屋造形芸術短大卒。「猫のパラパラブックス」シリーズなど著書多数。東京都町田市の「市民文学館ことばらんど」で12月26日まで企画展「浅生ハルミン ブック・パラダイス」が開催中。