『物理学者、SF映画にハマる』
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物理学者、SF映画にハマる 高水裕一著
[レビュアー] 笹本祐一(SF作家)
◆「夢想」に寄り添い全力解説
科学の世界では、可能性が立証されていないことは論じられない。夢想は科学ではないからである。一例を挙げれば系外惑星、すなわち太陽系外惑星は、二十世紀の終わり近くに観測により発見されるまでは天文学上の重大な問題ではなかった。
SF映画は、夢想である。この本は、夢想は語れない科学者が精一杯SF映画に寄り添った説明の講義である。
前半で取り上げられるのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ターミネーター』などの時間もの。ドラえもん的な時間旅行は不可能であり、この世のものでない物質なら、あるいは情報だけなら過去に行けるかも、という最新の理論を紹介しつつ、原因があって結果があるという因果律を説明する。
後半の宇宙編では、現実の宇宙開発に即した地球近傍までの宇宙開発映画と、恒星間を舞台とするSF映画が語られる。月面着陸したアームストロング船長の伝記映画である『ファーストマン』はSF映画ではないので、現実の宇宙空間とそこで起きる物理現象の解説が主となる。幸いなことに物理法則は不変なので、過去でも未来でも宇宙のどこでも適用できる。
ISSから地球に帰還する『ゼロ・グラビティ』では宇宙の無重量状態と真空について、火星単独サバイバル映画『オデッセイ』では火星環境についての解説がある。火星の夕陽(ゆうひ)は、陽光が地球大気ほど散乱しないので青いという。地球環境が危機的状況なので移住先を探す『インターステラー』では、光年単位の移動手段として出てくるワームホール航法について、『スターウォーズ』では超光速の定番であるワープの考察が行われる。
科学者だから、SF映画の嘘(うそ)はわかっている。それでも指摘せざるを得ないのが科学者である。
今までいっぱい太陽系外の地球型惑星を登場させたSF作家としては、「系外惑星が地球と同じ大気成分である確率は非常に低い」という指摘は痛い。地球型系外惑星が確認されても、そこで人類が生存できるかどうかはまた別な問題なのである。
(光文社新書・858円)
1980年生まれ。筑波大計算科学研究センター研究員。理学博士。専門は宇宙論。
◆もう1冊
笹本祐一著『星のパイロット』(創元SF文庫)