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- 猫との約束 : いとおしい、人生の相棒へ
- 価格:1,430円(税込)
猫との約束を通して、「共生」の覚悟と責任をそっと問いかける
出会った日、こころ寄りそわせた日、別れの日……。交わした約束を猫はきっと忘れません。
巡り会った保護猫たちとのしあわせの実話を猫語りの名手である佐竹茉莉子さんが、心を込めて綴っています。
捨てられていた猫、人に心を許さずさまよっていた猫、病気やハンデを持つ猫、長年連れそった老猫……。本書に登場する猫たちは、猫生も個性もいろいろ。
それぞれの愛おしさがあり飼い主とのしあわせのかたちがそこにはあります。
猫を家に迎え、寄りそい、最後まで共に生きていくには、覚悟と責任も必須。「しあわせにするよ」と小さな命を守り抜くためにしたその約束は、「人間と猫」のみならず、「人と人」「人と動物」といった大きな共生社会を考えるうえでも大切な土台のはず。エピソードを通し、そっと問いかけています。
17のエピソードの中から、1話再編でご紹介します。
生きて楽しいことをいっぱいしようね
保育園から帰ってきたユイトくんは、部屋に入るなり、待ち構えていたみーちゃんと遊び始める。みーちゃんは、推定5か月の黒キジの可愛い「おとうと」だ。飛んだり跳ねたり、飽きることなく遊び続ける。
「かわいい」
ユイトくんの口から日に何度この言葉がこぼれるだろう。 ユイトくんは毎日が楽しくてたまらない。みーちゃんだって、同じだ。
ユイトくんとみーちゃんの出会いは、譲渡会だった。会場に入るなり、ケージの中から手を出してきて、猛アピールしてきた子猫がいた。他の猫たちも見ないうちに、ユイトくんは「この子にしよう」とお母さんに訴えた。 ケージの名札には、仮の名として「きせき」とあった。
トライアルの申し込み時に、 保護猫シェルター「またたび家」 代表である塩沢美幸さんが子猫の過去を話してくれた。それを聞いたお母さんはびっくりして、ぼろぼろ泣きながらこころに決める。 「絶対にしあわせにしてやらなくては」と。
命は消えかかっていた
譲渡会から、2か月さかのぼったある日のこと。
1匹の子猫が埼玉県内の保健所に収容された。 生まれて2週間ほどの乳飲み子だ。
道ばたに捨てられたのだろうか、母猫とはぐれたのだろうか。お乳をいったい何日飲めたのだろうか。 痩せこけて目はうつろ。ぐったりとしていた。
このままでは死んでしまうと、職員はペットボトルの湯たんぽを作ってあてがい、連絡を取り合っている塩沢さんのもとへ運んだ。
子猫を一目見て、もう危ないとわかった塩沢さんは、ほかの予定をとりやめ、すぐさま、獣医さんのもとへ急いだ。
体温は32.1度、体重は200グラムしかない。
「やれることはやってみます。 がんばりましょう!」
と、獣医さんは集中治療室に預かってくれた。
あきらめない!
いっときは持ち直すかに見えたが、1週間後、「危篤」の知らせが入る。
駆けつけると、子猫は、もはやビクリとも動かず、瞳孔も開き始めている。 これまでに瀕死の保護猫を必死の手当の甲斐なく幾度も見送ってきたが、その間際の姿がそこにあった。
手を尽くしてくれた獣医さんにこころからお礼を言い、家に連れて帰ることにした。
帰りの車の中、子猫の息は浅く、ときにカッと大きく息を吸い込んだ。いよいよのときの呼吸である。
だが、 最後まであきらめはしなかった。
「しあわせになろう!」
「生きよう! 生きて幸せになろう!」
ただそれのみを願い、塩沢さんは点滴やブドウ糖投与などの手当を懸命に続けた。
そして、奇跡が起きた
子猫は、ただただ生きようとしていた。 塩沢さんの手当のすべてを受け入れた。
「生きたい」 「助けたい」という2つの思いが強く結ばれたとき、奇跡が起きた。
自力で頭を起こしたのは、2~3日後。 初めて水を飲んだのは、その数日後。半月後には、
目に生き生きとした光が宿っていた。
保健所の職員さんや獣医さんの思いと行動、そして、「生きよう」と呼びかけ続けた塩沢さんのあきらめないこころが、奇跡を呼び寄せたのだ。
元気になった子猫は、「きせき」という仮の名をもらい、シェルターに移動してからは、 ほかの保護子猫たちと仲良く遊び回る日々。猫も人も大好きな、好奇心旺盛で活発な子に育った。
生きてくれて、ありがとう
譲渡会の日、きせきは大モテで、 トライアル申し込みは何件も あった。
塩沢さんが、 このおうちに託したいと思ったのは、ユイトくんのお母さんが「大事にしたい」という言葉とともに流した涙を見たときだった。生きてくれてありがとう。その思いをずっと共有できると確信し、きせきがしあわせに暮らす未来がはっきり想像できたのだ。
ユイトくんのうちに着くなり、きせきは、 すぐにリラックスしてお兄ちゃんと遊び始め、ゴロゴロゴロゴロと喉を鳴らし続けた。
きせきは、ユイトくんに「みーちゃん」という新しい名前をもらった。 「命のバトンを最後に受け取った私たち家族も、みーちゃんのように全力でしあわせに生きていかなきゃ」とお母さんは思っている。
*
生きたかったたくさんの子の分まで、みーちゃんは、命を輝かせて生きている。 愛されることも知らず短い一生を終える子がなくなりますように。「あきらめない」を胸に、塩沢さんたちの奮闘は、今日も続く。
(続きは書籍でお楽しみください。)
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