「こんな作品が読みたい!」新潮ミステリー大賞の予選委員が教える、投稿原稿の「ABC」

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第九回新潮ミステリー大賞に向けて

――この賞で求められている作品とはどのようなものなのでしょうか。

宇田川 うーん……。あえて言うとしたら、奇抜なキャラや設定で軽やかに楽しませるというよりも、ミステリを読み慣れた方に歓迎される重厚な物語が選ばれている気がします。

千街 それはそうかもしれませんね。

新井 もっとミステリミステリした濃いものが来てほしいなと思います。

千街 ただそういった傾向も正直曖昧なものです。この賞はまだ九年目で、今の段階では賞の性格がはっきりとは定まっていないと思うんです。本格系やホラー系といったジャンルに絞られているというよりは、間口を広くとっていろいろな作品を待ち構えている。これから十年二十年とつづいていけばそこも固まってくるのかもしれないけれど、今のところは。

新井 今ならどんな作品だって受賞できるということですね。

宇田川 まだ九年目だから、受賞作の数も多くない。だからこの賞に応募するなら、ぜひこれまでの受賞作を読んでみるといいと思います。それらを読むと、この賞がどういうものを求めているのか、どういう水準の物語が求められているのかがわかるはずです。

新井 「こういうのはこれまでなかっただろう」と応募するのもいいですしね。

宇田川 もちろん!

新井 応募してくれる方は、ミステリをあまり読んだことがない人も意外に多いんですよ。でもデビューしたらどんな人がライバルになるのかって気になりませんか? 流行を追う、対策を練るという意味ではなく、世間一般のエンターテインメントのレベルを知っておいて損はないと思うんです。

宇田川 そういうふうにいろんな作品を読んでみると、文章記号などのような基礎的なことにも気付けると思います。自分の作品も客観的に見る目が養われるでしょうし。

新井 どの新人賞でもあまり変わらないと思いますが、事務局としては新作で応募してほしいんですよね。「ネットで発表している作品や、他の賞で落ちた作品は二重投稿になるのか」という問い合わせはすごく多い。商業的に既に発表している作品は当然ダメです。また、将来有料で刊行される可能性のあるものが無料で読めるのはあまり好ましくないので、ネットに上げているなら、一度下げてもらいたい、とは答えてはいます。
 でも本音としては、新作で勝負してほしい。ほかの賞である程度のところまで残った作品については、事務局は他賞の予選通過作発表を見て確認していますから、タイトルやペンネームで気づきます。それがプラスに作用することはまずないです。

千街 逆にそこに慢心するのが一番よくないですね。たくさんのフレッシュな作品と横一列に並ぶ中で、他の賞の選考である程度のところまで残ったことはなんの評価対象にもなりません。むしろその水準では駄目で、さらに上の境地を目指さないといけないと気づくことが大切です。一度応募した作品でも、原形をとどめないほど改稿して見違えるほど良くなっていれば話は別ですが。

新井 なにより、プロになったらどんどん新しい作品を書かなきゃならない。どうしても形にしたいなら、将来のために残しておけばいい。別の作品でデビューして、売れっ子になって、それでも出したいと思っていたら、新たに手を入れて出せば良い。
 まずは年内に新しい原稿を書き上げることが目標です。そうして友達に読んでもらいつつ、年が明けたら自分でも読んでみて、直すべきところを直していく。応募締切は二〇二二年三月末だから、それくらいが理想的なスケジュールだと思います。

千街 それだけで作品のクオリティがかなり変わってくるんじゃないでしょうか。応募前に誰かに読んでもらって推敲する。これが今日いちばん大事なことかもしれないですね。

新井 いろんなことを言ったけれど、まずは面白い作品を楽しく読ませてもらいたい。いい作品を読むと、読んだ後に思わず誰かと話したくなっちゃいますよね。新人賞の選考では、それが一番楽しい瞬間です。

千街 本の形でもまた読みたいと思える作品がいいですね。

宇田川 そんな作品と出会えたら、最高です。

新井 下読みであることを忘れさせてくれるような素晴らしい作品を、お待ちしています。

応募原稿の八箇条

一、募集要項をとことん読み込むべし!
原稿枚数の厳守や二重投稿の禁止など、“当たり前”を守ることが大事。

二、“読みにくさ”で物語を壊すまじ!
見にくい表記や誤字脱字で、読者の心は離れていく。

三、締切三カ月前に原稿を書き上げるべし!
時間をおいて読むと作品の穴が浮かび上がる。

四、応募前に読んでくれる人を見つけるべし!
書き手の想いが伝わっているかは読み手にしかわからない。

五、「ステレオタイプ」には逃げるまじ!
誰でも書ける作品は誰の心にも響かない。

六、“削る勇気”を持つべし!
物語の長さと読書を楽しませる難しさは比例する。

七、流行に身を任せるまじ!
流行のジャンルや題材には様々なハードルが……

八、たくさんの作品を読んで未来のライバルを見定めるべし!
世間のエンターテインメントを知れば自分の力も見えてくる。

▼第9回 新潮ミステリー大賞 募集要項はこちら▼
https://www.shinchosha.co.jp/prizes/mystery/

新潮社 小説新潮
2021年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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