『冤罪法廷(上)』
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『冤罪法廷(下)』
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法廷ものの巨匠が帰ってきた! アメリカ刑事司法の闇をえぐる快作
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
ジョン・グリシャムはリーガルミステリーの巨匠だが、日本で話題になった近作といえば、村上春樹訳の『「グレート・ギャツビー」を追え』。強奪された作家の直筆原稿の行方を追う文芸ミステリーだった。
リーガルものをやめたのかと不安に駆られたファンもいるやもしれぬが、ご安心あれ。グリシャム先生、時折法廷もの以外の作品も書くけど、法廷ものもまだまだ書き続けています。それも読みでのあるものを。
本書は無実の罪を着せられた受刑者を救おうとする弁護士の活躍を描いた長篇だが、そういうと、日本の小説やドラマでもよくあるパターンかと思われる向きもあろう。
だが主人公のカレン・ポストは、四八歳の冤罪専門の弁護士で、牧師でもある変わり種。三〇歳までは刑事専門の弁護士として普通に働いていたが、凶悪な少年犯罪者の弁護を担当して良心の呵責に耐えきれなくなり、精神を病んで妻とも別れる羽目に。その泥沼から救い出してくれたのが聖公会教会だったわけで、牧師になったポストは、その仕事を通じて冤罪受刑者の救済という天職を見出したのだった。
彼の働く法律事務所はボランティアも同然という設定だが、嘘っぽいと思うなかれ。実はポストにも、彼の事務所にもモデルが存在するばかりか、本書の題材自体、現実の冤罪事件がベースというから恐れ入る。
物語は死刑を目前にした冤罪者をポストが執行一時停止に持ち込むところから始まるが、話のメインはフロリダの田舎町で弁護士を射殺、終身刑となり、その後二二年にわたって服役している男の無実の証明。この事件、ポストにいわせれば、偽証とでっち上げにまみれていたが、不可解な謎もつきまとっていた。
警察ドラマでは科学捜査の力で事件はたちまち解決するが、現実ではエセ専門家証人が多くの冤罪者を生んでいるという恐怖。アメリカの刑事司法の闇をえぐり出した快作だ。