実情はさておき、窓辺に猫がいる我が家は幸せそう 『猫のいる家に帰りたい』試し読み

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 名前を呼んでも無反応、カメラを向ければ退屈そうにあくび。どんなにつれなくされても、ひざに乗られると「もしかしたら俺、好かれているのかも」と一喜一憂……。

 多くの猫と暮らしてきた猫歌人・仁尾智さんが、13年間の悲喜こもごもを短歌とエッセイで綴った『猫のいる家に帰りたい』(辰巳出版)から、今回は「家に猫がいることの幸せ」を感じられるエピソード2話をご紹介します。

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実情はさておき 窓辺に猫がいる我が家は 幸せそうに見えそう

 定期的に診てもらう必要がある猫がいて、二週間に一度くらい動物病院に行く。病院へは、妻の運転する車で行くことが多い。僕は助手席専門だ。


窓辺に猫を見つけると、うれしくなる

 病院への道中、猫を飼っている家が数軒ある。猫は窓辺が好きなので、病院に行くときには、結構な高確率で窓越しにちょこんと座る猫を目撃できる。それが、なんだかうれしい。
 通り過ぎるほんの一瞬の間に「いたいた! きょうはでかい茶白がいた!」「二匹いるよ!」「きょうは誰もいなかった……」などと、興奮気味に妻に報告する。病院に連れて行かれる猫は、キャリーバッグの中で不満そうに鳴いている。車内はいつもそんな感じだ。
 窓辺の猫はいい。外から見る窓辺の猫は、なぜあんなにいいのだろう。まず毛づやがよくて、健康的な猫が多いのがいい。かわいがられているんだろうな……と想像できるのも微笑ましい。あと自宅なので、猫がくつろいでいる様子なのもいい。
 また、その家の人に「おお、同志よ……」みたいな気持ちにもなる。我が家で猫が引き起こすいろいろなことを、この家の人も体験しているのかと思うと、ちょっと一緒にお酒でも飲みに行きたくなる。
 気が重くなりがちな通院だけど、そう悪いものでもないのだ。

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まっさきに 猫がまくらのまんなかで まんぞくそうにまるまってます

 僕の布団には、常に枕が二つ並んでいる。
 もちろん、最愛の妻と片時も離れずに眠るため、ではない。猫用である。


猫は必ず、僕が使う方の枕で丸くなる

 僕が寝支度をし始めると、それまで自分の寝場所にいた猫が、ノソリと姿を現わす。(待ちくたびれたよ)とでも言うふうにゆっくり伸びをする。(寝てたくせに)と思いながら、布団に入ろうとすると、二つ並べてある枕のうち「僕が使うほうの」枕の真ん中で丸くなるのだ。毎回。必ず、だ。確かに僕の枕のほうが、少し高さがあって、寝心地はよさそうだけれど。猫を抱き上げ、隣の枕に移したあと、なんとなく申し訳ない気がして、のどや背中をなでてやる、までが毎晩の日課となっている。
(同じ枕をもう一つ買えばよいのでは?)と思われることだろう。僕もそう思う。でもそうしたときの想像も容易につく。同じ枕を並べて、猫が寝ていないほうの枕に(しめしめ)と頭を置く僕。しばらくすると、ぐいぐい顔を擦り付けてきたり、お尻を僕に向けたりしながら幅寄せをしてきて、ついには僕の枕を占拠する猫。
 要は寝心地など関係なくて、僕の枕を奪いたいだけなのだ。その証拠に、朝起きるといつも僕の頭は、どちらの枕にも乗っていない。

仁尾 智(にお・さとる)
1968年生まれ。猫歌人。1999年に五行歌を作り始める。2004年「枡野浩一のかんたん短歌blog」と出会い、短歌を作り始める。短歌代表作に『ドラえもん短歌』(小学館文庫)収録の《自転車で君を家まで送ってた どこでもドアがなくてよかった》などがある。『猫びより』にて「猫のいる家に帰りたい」、『ネコまる』にて「猫の短歌」を連載中。著書に『猫のいる家に帰りたい』『これから猫を飼う人に伝えたい11のこと』(イラスト・小泉さよ)。

小泉さよ(こいずみ・さよ)
1976年東京都生まれ。おもに猫を描くフリーイラストレーター。著書に『猫ぱんち-二匹の猫との暮らし-』『和の暮らし』『もっと猫と仲良くなろう!』『さよなら、ちょうじろう。』『うちの猫を描こう!』『猫のいる家に帰りたい』『これから猫を飼う人に伝えたい11のこと』等。『猫びより』の連載「猫のいる家に帰りたい」ではイラストを担当。

辰巳出版
2022年2月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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