明日から新学期。新たな環境で、自分の子どもが授業についていけるだろうか……と不安を抱えるご両親も多いのではないでしょうか。
「百ます計算」をはじめとする「陰山メソッド」で知られる陰山英男さんは、40年以上にわたり教育現場で親と子の不安や悩みに向き合ってきた経験から「子どもが勉強につまずくタイミングは、小1と小2の2年間が圧倒的に多い」と言います。では、そうならないためにはどうすればよいのか。親としての心がまえを伺いました。
※本記事は『小1の不安「これだけ!」やれば大丈夫です』(陰山英男 著)の一部を抜粋・再編集したものです。
できない子は1人もいない!
みなさんは一般的に、子どもの頭の良し悪しは先天的なものが大きいとお考えになっていると思います。
ですが、僕は長年子どもを教えるうちに、「できない子は1人もいない」と考えるに至りました。先天的にできない子なんていなくて、もし「できない」子どもがいるなら、心の問題なんだと気づいたわけです。
つまり、「勉強が苦手」とか「勉強が嫌いだ」という気持ちが強くて、その気持ちが邪魔をして学習に入っていけないことがあると気づいたんです。
その一方で、ある日ふっと、「子どもってなんでこんなにできなくなっちゃったんだろう」と思いました。
僕はライフワークとして、子どもたちの学力問題を扱ってきました。教員になったのが1981年のことですから40年以上です。40年見てきて、学力が伸び悩む子が増えている。そう感じるようになったのです。
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なぜ、勉強が苦手な子が増えたのか
では、なぜ「勉強が苦手」と思う子どもたちが増えたのかというと、小学校の学習指導要領の変更は、たしかに原因の1つでしょう。
たとえば、小学1年生の算数の教科書は平均すると170ページほどです。ゆとり教育の時代は、小学1年生の算数は100ページ程度でした。ゆとり教育の是非はともかく、教科書が倍近いボリュームになっているのは事実です。
しかし、習うこと自体はそこまで増えていない。つまり、習っていることは変わらないんだけど、量的には増えているのです。
そもそも、小1で習う勉強は基礎中の基礎です。基礎・基本は繰り返しやらないと定着しないので、小1・小2の教科書は薄くして、学習量を減らし、何度も繰り返すというのが昔の方針でした。
ところがいまは、小学校の1年生の段階から難しい問題をやらせて、なぜそうなるかということを考えさせたりします。たとえば「12-3の計算のしかたを考えましょう」と考えさせます。
しかし、多くの子どもは「考える」ことが苦手です。
小1・小2の子どもはどんな難しいことでも「覚えろ」と言ったらあっという間に覚えますが、考えることはむずかしい。そんなの僕からすると当たり前なのですが、その大前提がおかしくなっているのです。
「できない」から「嫌い」になる
子どもは楽しいことは前のめりにできますが、楽しくないことはできません。考えるなんてことは最初からはできないのです。
だから結果的に、小1の子どもたちは、授業を受けるだけだと自然に「勉強ができない」状態に、そして「できないから嫌い」な状態になってしまうのです。
これに加えて、いまはお母さんたちも「できない」ことに敏感です。勉強しなさい、教科書読みなさいと、苦手なことをがんばらせようとする。しかしそれは、「勉強嫌いな子」をつくるだけです。
子どもにとってお母さんの言葉は絶対なので、「やりなさい」「どうしてできないの」を聞いているうちに、「できない自分」を装いはじめます。「どうして(できるのに)できないの?」と怒られるのはつらいじゃないですか。それよりは「できないけれど、仕方ないわね」とあきらめられたほうが、子どもにとっては楽なんです。
だからいま、できない子が増えている。僕はそう考えています。
できない子をなくすことは可能
ただ、僕は「できない子」をなくすことは可能であることも知っています。学力が低いといわれている学校を何校も変えてきましたし、「できない子」といわれていた子を「できる子」に変えてきたからです。僕の40年の集大成である陰山メソッドは「できる子」を増やすメソッドでもあるのです。
僕が特別授業をする前に、子どもたちによく言う言葉があります。「できるようになるから」って言うんです。誰に対してもです。
これは意味があって、僕が「できるようになりますよ」と言ったら、子どもはついうっかり、「なりたいな」と思っちゃうんです。
子どもはみんな、前向きです。みんな「できるようになりたい」という気持ちを心の奥底に持っているので、そこに火をつけたら本当にできるようになるんです。この技法を、世の中のお母さんにも知ってほしいと思っています。
親の接し方で子どもは大きく変わる
お母さん方は、スーパー・ティーチャーではないかもしれませんが、子どもが大好きな、世界でたった1人のお母さんです。
お母さんの言葉がけ、アシストしだいで子どもは大きく変わります。だから、お母さんは心配しすぎないこと。ぜひ、お子さんが幸せな学校生活を送れるように、笑顔でアシストしてあげてください。
勉強が好きで、学校が好き。そう感じられたら、小1は大成功です。好きだからがんばれる。がんばるから結果が出ます。それだけで、お子さんの小学校生活はきっとうまくいくでしょう。
陰山 英男(かげやま ひでお)
1958年兵庫県生まれ。陰山ラボ代表(教育クリエイター)。岡山大学法学部卒業後、小学校教員に。兵庫県朝来町立(現朝来市立)山口小学校教師時代、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「陰山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。2003年4月尾道市立土堂小学校校長に全国公募により就任。「百ます計算」や漢字練習の反復学習を続け基礎学力の向上に取り組む一方、そろばん指導やICT機器の活用なども積極的に導入する教育法によって子どもたちの学力向上を実現する。 2006年から2016年まで立命館大学教授。一般財団法人基礎力財団理事長。2021年度、これまでの実践の総まとめとなるオンライン学習システム“K-GYM”をリリース。累計1000万部を超える『徹底反復』シリーズ(小学館)をはじめ、『子どもの幸せを一番に考えるのをやめなさい』(SBクリエイティブ)『学力は1年で伸びる!』(朝日新聞出版)『陰山手帳』(ダイヤモンド社)等、著書多数。
陰山英男(陰山ラボ代表/教育クリエイター) 協力:日本実業出版社
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