『探訪 ローカル番組の作り手たち』
書籍情報:openBD
探訪 ローカル番組の作り手たち 隈元信一著
[レビュアー] 岩崎貞明(放送レポート編集長)
◆謙虚に誠実に 輝く言葉
長らくメディア担当を務めた新聞記者が、あらためて各地の放送局を訪ね歩き、そこで番組制作に携わっている人々の話を聞いて回る。その記録が一冊にまとめられた。
どのページを開いても、大ベテランから新進気鋭の若手まで、番組制作者たちの“珠玉の言葉”が目に飛び込んでくる。
「テレビは取材対象が語らないことを後ろの空間が物語る瞬間がある」「変わらないのは『戦争をしちゃいけないよ』を伝えること」「私たちの仕事はね、小さな声にスピーカーを当てることよ」などなど…。
地域で生活を営む人々や、重苦しい歴史の証言者たちの言葉に謙虚な姿勢で向きあって、それをまた多くの人々に伝えるために誠実に番組作りを続けてきた制作者たちの言葉は、一つひとつが味わい深く、光り輝いて見える。
著者はそうした言葉たちにひたすら耳を傾け、記者出身らしく切れのある文体で書き綴(つづ)っている。北海道から沖縄まで、東京キー局・ローカル局そしてコミュニティFMも含め、津々浦々の放送局で日夜番組作りにいそしんでいる制作者の姿が目に浮かぶ。
いま放送業界では、インターネットの急激な発展で広告収入を奪われ、「若者のテレビ離れ」も指摘されるようになって久しい。経営効率化のために、ローカル局の再編や地域番組の同一化なども議論の俎上(そじょう)に上っている。
しかし、本書を読めば、ローカル局は東京から見えるよりずっと元気だし、番組は多彩で面白く、見応えがある。本書に登場するような制作者が各地で活躍している限り、ローカル放送局は滅びないし滅ぼすようなことがあってはならない、と強く思う。
巻末に、この本の製作のために協力・奔走した放送・メディア関係者の名前が列記されている。この本は、著者をはじめとして、メディアとこの国に暮らす人々のことを真摯(しんし)に考えてきた人たちが、未来に向けて送り届けようとした玉手箱のようなものなのかもしれないと感じた。
(はる書房・1650円)
1953年生まれ。ジャーナリスト。元朝日新聞論説委員。著書『永六輔 時代を旅した言葉の職人』。
◆もう1冊
市村元(はじめ)、音好宏、「地方の時代」映像祭実行委員会編『地域発ドキュメンタリーが社会を変える 作り手と映像祭の挑戦』(ナカニシヤ出版)