『オッサンの壁』
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オッサン栄えて国滅ぶ
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
女の新聞記者が男の政治家と切り結ぶ構図、最近なら東京新聞の望月衣塑子の『新聞記者』やその映画版・ドラマ版が頭に浮かぶし、ちょと昔に遡るなら大林宣彦が映画化した丸谷才一の『女ざかり』あたりが思い出されるわけですが、この『オッサンの壁』もまた、全国紙初の女性政治部長だった毎日新聞の佐藤千矢子がオッサンだらけの政治ギョーカイで仕事し続けてきての一代記です。
フェミニズムともリベラリズムとも距離を置く現役論説委員の著書ゆえ、筆致は暴露とも糾弾とも無縁。それでも、随所で語られる自身や同性の同僚・知人に降り掛かった政治家や役人、同業者というオッサン連による無知に無理解セクハラパワハラ男の嫉妬その他いろいろに触れるだけで、この国のありさまに正しく絶望できる。オッサンであることは、男尊女卑と年功序列によって二段重ねに下駄を履かせてもらえる特権。今なおそこにしがみつくオッサンの醜態からは、既存の政治、そして政治ヂャーナリズムの最優先課題が既得権益の死守でしかないことが赤裸々に透ける。
『バカの壁』髣髴のタイトルには引っかかったものの、中身を読んでみると、著者の周りに固くて高いオッサンの壁が実在してきたことが実感されて気にならなくなるし、さらにはこの題名、そもそも『バカの壁』を踏まえてのものだったのかもとさえ思えてくる。「オッサンの壁=バカの壁」という等式を煮詰めると「オッサン=バカ」ですから。