五月病で「やる気」が出ないのは本人のせいではない モチベーションを下げる犯人とは

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Photo by: Laura BC

月曜日の朝、「これから1週間がまたはじまる……」と憂鬱な気分になる。とくに、連休明けはなおさら。いわゆる「五月病」かもしれません。

そんな、いまいち「やる気」が出ないとき、なかには「やる気が起きないのは、自分が怠けているせい」と無理に自らを鼓舞しようとする人もいます。また、上司から「休み明けで、たるんでるんじゃないか」と叱責されるケースもあるでしょう。このように「やる気」が出ないのは、本当に個人の努力が足りないせいなのでしょうか?

リクルートやファーストリテイリング、ソフトバンクといった名だたる大企業で成果を上げ、現在は経営コンサルタントとして活躍されている松岡保昌さんによると、実際は上司や周囲との関わりや、会社の制度・処遇などの影響によって「やる気」が下がってしまうケースも少なくないようです。そんな「危うい組織の兆候」について、松岡さんに話を伺いました。

※本記事は『こうして社員は、やる気を失っていく ~リーダーのための「人が自ら動く組織心理」』(松岡保昌 著)の一部を抜粋・再編集したものです。

「やる気」を失う場面は日常に転がっている

よく「やる気」は個人の問題だと勘違いされがちです。もちろん個人の要素もありますが、多くの場合、「やる気」は職場の問題です。職場が社員の「モチベーション」を上げることも下げることもあるのです。

たとえば、「忙しい毎日のなかで、毎回指示されることがコロコロ変わり、上司や先輩への不満が溜まっていってしまった」「頑張って営業成績を上げたのに、成績が振るわなかった同期と評価も待遇もほとんど変わらず、なんだか、やる気がなくなった」といったように。

このように、人が「やる気」を失っていく場面は、じつは日常のあちこちに転がっています。私は、会社の経営や組織風土の改革を支援するなかで、たくさんの事例を見てきました。「組織が疲弊していく会社」には、次のような共通パターンがあります。

【組織が疲弊していく会社に共通するパターン(例)】

・いつもピリピリしている――不機嫌、不安、不快がはびこる組織

・マイナス要因の犯人探しに執心――「性悪説」による不信感と不寛容な組織

・長期的な展望を描けない――キャリア設計が不安、不透明な組織

・個人が仕事を抱えすぎている――不平等で不満ばかりの組織

・仕事を押しつけ合う――全社的視点、協働の意識がない組織

・物事を決められない――コミュニケーション機能が不全な組織

・「理念」が言葉だけ――細部に魂が入っていない組織

・管理職が逆ロールモデル――めざすべき人物が不在で不幸な組織

このような組織で周囲との関係のなかで下がった「やる気」は、その職場全体の課題でもあるのです。そこを解決しないかぎり、「やる気」が下がる社員は出続ける可能性が高いのです。

良くも悪くも「企業文化」にふさわしい人が集まる

さらに言えば、「社員のやる気を高める」というのは、単に個人のモチベーションがアップすることで、生産性が高まるためだけではありません。その会社の働き方は、ひいては企業文化へとつながるからです。

企業文化には、大きく2つの力があります。1つは、違うタイプの人をも、いつしか同じような考え、行動に染めてしまう力です。もう1つは、磁石のように、似たタイプの人々を引き寄せる力です。

仕事の質や生産性が高い組織は、社員が自由に発言し、自分の意志で行動しています。このような会社は、「働きがい」を実感しやすいはずです。

一方、仕事の質や生産性が低い会社は、「やってもやっても仕事の充実感を感じられないこと」が多く、組織は停滞し、人も疲弊して、モチベーションが下がっています。

良くも悪くも、その会社には、その組織文化にふさわしい人たちが集まり、残るのです。

モチベーションの高い集団は、難易度の高いことにも前向きに取り組もうとする「やる気に満ちた人」たちを引きつけます。

一方、モチベーションの低い集団は、「やる気に満ちた人」を排除します。「やる気に満ちた人」がいると、自分たちがその人と比較されてしまうので困るのです。同じことをするように強要されるので困るのです。このような会社では、「やる気に満ちた人」は疎まれ、居づらくなります。

たとえ、やる気を持ち続けていても、やってもやらなくても評価が大して変わらない環境に虚しさを感じ、場合によってはその会社を辞めてしまうことも。

いくらモチベーションの高い前向きな人を補充すべく採用しても、定着せず、しばらくすると辞めてしまうか、他の大勢の社員と同じようなカラーに染まってしまいます。

この繰り返しで、いつしか、会社にいる人たちは、言われたことをただこなすだけの、主体性とはほど遠い、受け身の集団になってしまうのです。

モチベーションの高い会社と低い会社の二極化が起こっている

モチベーションの高い会社と低い会社では、それぞれ同じようなタイプの人が集うことにより、「やる気のある集団」と「やる気のない集団」の二極化が進みます。

一度負のスパイラルに陥った会社は、抜け出すのは容易ではありません。当然、「企業力」の差はどんどん開いていくのです。

あなたの会社の多数派はどちらのタイプですか? もしも負のスパイラルに陥っているようであれば、一刻も早く負のスパイラルを断ち切らなければなりません。そして、最終的には正のスパイラルを生み出すのです。

そのためにも、今のあなたの組織は、たとえば、次のどのような状態かを把握することが重要です。

【あなたがいる組織はどんな状態?】

Stage 1. モチベーションを下げる要因ばかりの「明らかにマイナスな状態の会社」

Stage 2. モチベーションを下げる要因を取り除こうとしている「マイナスからゼロに向かっている会社」

Stage 3. モチベーションを上げるべく取り組んでいる「ゼロからプラスに向かっている会社」

Stage 4. モチベーションが高い状態を維持するために工夫を重ねる「恒常的にプラスの状態の会社」

それぞれのステージで、取り組むべき内容も、もたらされる成果も大きく異なります。

総じて言えるのは、まずモチベーションをいかに下げないか。それができたらプラスのスパイラルに向かうために、どうすればモチベーションが上がるのか。このようなモチベーションに対する取り組みが、「企業力」と直結するのです。

もし今あなたの組織のメンバーが、いまいち「やる気」がないと感じているならば、まずそれは自分自身の問題か、それとも組織に起因するものか、今一度見つめ直してみてください。

松岡 保昌(まつおか やすまさ)
株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。1963年生まれ。1986年同志社大学経済学部卒業後、リクルートに入社。『就職ジャーナル』『works』の編集や組織人事コンサルタントとして活躍後、2000年にファーストリテイリングにて、執行役員人事総務部長として当時の急成長を人事戦略面から支える。その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として逆風下での広報・宣伝の在り方を見直し新たな企業ブランドづくりに取り組む。2004年にソフトバンクに移り、ブランド戦略室長としてCIを実施。福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役として球団の立ち上げを行う。また、AFPBB News編集長として、インターネットでの新しいニュースコミュニティサイトを立ち上げる。現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。筑波大学大学院 人間総合科学研究科 生涯発達専攻カウンセリングコース主催「キャリア・プロフェッショナル養成講座」修了。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援やキャリアコンサルタントの指導育成、企業内キャリアコンサルティングの普及にも力を入れている。著書『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)。【会社HP】

松岡保昌(モチベーションジャパン代表) 協力:日本実業出版社

日本実業出版社
2022年5月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

日本実業出版社

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