不良資産になっていた裏山の売却に5年……相続専門の税理士が父親を説得するまで

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画像提供:写真AC

 国税庁の最新の調査では、令和2年に亡くなった人のうち、相続税の課税の対象となる人は約12万人、遺族で相続税を納税した人は約26万人といずれも右肩上がりで推移しています。将来的な増税も検討されていて、相続および相続税は、私たちにとってますます身近になりつつあります。

 税理士の清田幸弘さんは、相続税の申告・相談の経験が豊富な専門家ですが、自分の父親の相続に、子として、税理士としてかかわることになりました。肉親であれ、お客様であれ、スタンスはかわらないと言う清田さんですが、いざ当事者として相続にかかわり痛感したことがありました。清田さんの著書『相続専門の税理士、父の相続を担当する』より、相続の現実(リアル)を紹介します。

親が亡くなったあとでは相続対策はできない

 親と相続の話をする場合、「親の死」が前提なので、人によっては抵抗を感じます。

 相続に関する話はデリケートであり、気心の知れた親子であっても、話しにくいものです。

 親と相続の話をしておきたくても、なかなか切り出せずにいる方も多いと思います。

 それでも、相続対策は、できるだけ早めにはじめたほうが得策です。

「相続のタイミングは、いつやってくるかわからない」

「相続対策には、時間がかかる」

「相続発生後(親が亡くなったあと)では、相続対策はできない」からです。

 親(財産所有者)が健康を損ねてしまったあとでは、相続対策を検討するのが難しくなってしまいます。


イラスト:櫨木清佳

裏山が不良資産になっていることを指摘するが

 清田家の場合、「父」から相続の話があったわけではなく、「私」から話を切り出しました。

 私から話を振った理由は、

・父は先代から「家督相続」によって財産を譲り受けたため、「均分相続」の大変さを知らない

・私は息子でありながらも、税理士として客観的、専門的な意見ができる

 と考えたからです。

 前職の農協時代から、農家の方々の

「農地が財産に含まれていると、遺産分割がまとまりにくい」

「農地は面積が大きいので、地域によっては評価額が高額になり、相続税が多額になる」

「農地を相続すると、固定資産税、維持費用などのコストや管理の手間が生じる」

「親が相続の方向性を示さないまま亡くなると、相続人同士が揉めやすい」

 といった相続のトラブルを見ていたため、「早くから相続対策すること」の必要性を感じていました。

 ただし、「相続対策をしたい」とストレートに切り出すと、父が機嫌を悪くするかもしれません。そこでまず、「税理士の意見」として、

「自宅の裏山が、不良資産になっている」

「うちは、現預金よりも土地のほうが多いから、資産の組み換えをしたほうがいい」

 ことを指摘しました。

〈資産の組み換え〉

 活用していない不動産を売却して現金化する、不動産を売却した資金で賃貸物件を購入するなど、高い収益を生むように転換すること。


イラスト:櫨木清佳

売却に5年、遺言の作成も難航

 自宅の裏山は、約1ヘクタール(1ヘクタールは、100m×100mの広さ)。収益性はなく、固定資産税だけがかかっていた状態です。「ほったらかし」にはできないため、草刈りもしなければなりません。1ヘクタールの山林を維持管理するのは、時間とお金がかかります。

 利用価値があるのなら、保有することにも意義はあります。ですが、ただ持っているだけでは資産ではなく、負債です。

 利用価値がなくても評価額はつくため、裏山を相続するときに相続税が課せられます。父も当然、

「裏山には、農地や宅地としての利用価値はない」

「この裏山の相続には、相続税がかかる」

 ことは理解していたはずです。

 それでも父がこの土地にこだわったのは、

「代々受け継いできたものを、自分の代で手放すことはできない」

「売ってしまったら、土地を残すことができない」

 という心情的、感情的な理由からでした。

 裏山の整理をする前に、父の気持ちの整理が先決です。

 父が「裏山を整理すること」に納得するまでに3年、裏山を整理するまでさらに2年、結局、裏山の売却には、「約5年」の歳月が必要でした。

 遺言の作成も、なかなか着手してもらえず、とても時間がかかりました。

 父の相続で、相続対策はできるだけ早くはじめたほうがいいことをあらためて実感しました。

清田幸弘(税理士)
ランドマーク税理士法人 代表税理士。立教大学大学院客員教授。1962年、神奈川県横浜市生まれ。明治大学卒業。横浜農協(旧横浜北農協)に9年間勤務、金融・経営相談業務を行う。資産税専門の会計事務所勤務の後、1997年、清田会計事務所設立。その後、ランドマーク税理士法人に組織変更し、現在13の本支店で精力的に活動中。急増する相談案件に対応するべく、相続の相談窓口「丸の内相続プラザ」を開設。また、相続実務のプロフェッショナルを育成するため「丸の内相続大学校」を開校し、業界全体の底上げと後進の育成にも力を注いでいる。

清田幸弘(税理士) 協力:あさ出版

あさ出版
2022年5月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

あさ出版

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