【産経の本】『トオサンの桜 台湾日本語世代からの遺言』平野久美子著

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■「元日本人」の矜持

トオサン(「多桑=父さん」、台湾語)とは日本の統治時代に日本語を学び、日本式の教育を受けて育った台湾の人々のことである。彼らは現在も日本語を使いこなし、かつて日本人であったことに誇りを持っている人も多い。

例えば体系的な徳目として、人生の糧として、「教育勅語(ちょくご)」はトオサンの間で今も評価が高いという。本書では彼らの「これだけは日本人に言い残したい」という魂の叫びを伝えている。

「台湾の花咲じいさん」こと王海清氏は、統治時代に培った日本精神のおかげで戦後の混乱期を生き抜いたこともあった。日本人が植えた桜の美しさに夫婦そろって心を打たれ、自分も桜を植えようと思い立ったという。王氏の木は現在、三千数百本の桜並木となり、台湾中部の花見の名所となっている。

こうした桜に象徴される「日本的なるもの」を今の日本人は忘れてはいないか、元日本人として生きた自分たちを知ってほしい、とトオサンたちは訴える。

著者が現地で丹念に聞きとったエピソードの数々や、彼らの戦前戦後を浮き彫りにするアンケートからは、複雑な心の内が読みとれる。(産経NF文庫・924円)

産経新聞
2022年5月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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