【聞きたい。】和田秀樹さん 『80歳の壁』
[文] 三保谷浩輝
■老いを楽しく乗り越えて
高齢者専門の精神科医として長年、多くの患者を診療し、死にも向き合ってきた。その経験から年代別に老化への備えや闘い方を説いた本を次々と執筆。今春刊行の『80歳の壁』は35万部のヒットになっている。
「いくつになっても未知のことは不安。欝々とした気分で閉塞(へいそく)感もあると思う。そんな気持ちを楽にしてあげたいと、この本を書きました」
ある程度老いと闘える70代と違い、80歳からの人生には生老病死の大きな壁が怒濤(どとう)のように押し寄せるといい、そのさまざまな壁を乗り越える術を伝授する。
核となるのは「80歳を過ぎたら我慢をしない」生き方。「我慢して、つらい思いをして多少長生きするより、老いを受け入れ、できることを大事にして人生を楽しく謳歌(おうか)しましょう」
そして、食べたいものは食べていい。お酒も飲んでいい▽健康診断は受けなくていい▽薬は不調があるときだけ飲む▽運転免許は返納しなくていい▽男性ホルモンは元気の源▽子どもにはお金を残さない―などの項目を立てて指南する。
「うすうす自分でも思っていたことが書いてあるから、この本を読んで楽になったという人は多い」
本書では80歳以上の人を「幸齢者」と呼び、「残りの人生、自由に生きる権利を得たんだと思うくらいでいい」とエールを送る。一方、今の世の中に対して「年寄りに不寛容になった」と指摘も。
「もっと高齢者向けの娯楽とか社会が用意するべきなのに、高齢者を見捨てている。でも、この本が売れてわかりましたが、80歳でもアマゾンで本を買い、キンドル(電子書籍)で読んでいるんです。80歳をなめるなよと言いたい」
まさに「高齢者の味方」。自身は糖尿病に心不全も患いながら運動などで対処し、「今はかなり元気」という。「外食も好きなワインもやめていない。僕が長生きしたら、この本の信憑(しんぴょう)性も増すかな」(幻冬舎新書・990円)
三保谷浩輝
◇
【プロフィル】和田秀樹 わだ・ひでき 和田秀樹こころと体のクリニック院長。昭和35年、大阪府生まれ。東京大医学部卒。著書に『70歳が老化の分かれ道』『六十代と七十代 心と体の整え方』などがある。