『沓が行く。』戌井昭人著
[レビュアー] 産経新聞社
インスタ映えなんて恥ずかしいと言わんばかりに、行く先々で平凡このうえない風景や文物にレンズを向け、そこに創作の種子を発見して短い文章を添える。
放浪小説「オン・ザ・ロード」を書いたジャック・ケルアックの旅と、思いのままに裏町を歩いた文豪・永井荷風の東京散歩が融合したかのような特異な写文集だ。ほろ苦いユーモアを醸し出す哲学的な写真と文章は「行き当たりばったりで、おおいに間違え、おおいにドジを踏むことこそ、生きることの醍醐味(だいごみ)」と宣言する川端康成文学賞作家らしい。ついつい引き込まれ、あらぬ妄想を膨らませてしまう。(左右社・2090円)