『新宿花園裏交番 ナイトシフト』
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「男泣き必至」の〈新宿花園裏交番〉シリーズ最新刊 文芸評論家・縄田一男氏が紹介
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
〈新宿花園裏交番〉シリーズの熱気あふれる第二弾。
ことの発端は、くだんのジャンボ交番に勤務する若手巡査、坂下浩介と内藤章助が、緊急事態宣言の中、カラスが我が物顔に振る舞うという苦情を受けた事で始まる。
巣のあるビルの屋上には何者かの白骨死体が―。一方、ホステス通り魔事件が起こり、ただでさえ忙しいのに現場の老朽ビル群は、再開発を巡って反社不動産屋同士が角逐を繰り広げ、かてて加えて、所轄署では官公庁初のクラスターが発生。周囲の署が連携する不規則な体制で捜査が進められる事となった。これだけでも見せ場はたっぷりだが、作者はこんな事では満足しない。白骨死体と関わる組事務所にコロナウイルスが持ち込まれ、組員全員が発症していたのだ。
これらが大筋の物語だが、一見、脇筋に見えるミニバンの爆発、置き配の盗難、何人もの間を転々とする黄色ブドウ球菌とコロナウイルスの入った試験管、二年前の大量のパソコン盗難等が緻密に絡まり合い、驚くべき整合性をもってラストへ収斂(しゅうれん)していく様は見事としか言いようがない。
そして、様々な個性が疾駆する、一夜の群像劇の中で、誇り高き刑事・丸山が、何故、三年間の冷や飯暮らしをさせられたか、それがわかってくる段になると、もう男泣きだ。
さらには終りまであとわずかという三五一頁、これまた誇り高きホームレス「教授」が刑事に言う台詞(せりふ)のなんと小気味良い事か。これだけのストーリーを巧みにさばく香納諒一の腕前は名人芸に他ならない。シリーズの継続と発展を一ファンとして望んでいる。