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- ステージ4の緩和ケア医が実践するがんを悪化させない試み
- 価格:1,485円(税込)
『病院で死ぬということ』の著者で、日本の緩和ケアを牽引してきた山崎章郎さんは3年前、ステージ4の大腸がんを宣告された。これまでおよそ2000人の末期がん患者を看取って来た山崎さんは、ご自身が罹患しはじめて気づいたことがいくつもあった。『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』の「はじめに」を公開する。
はじめに
本書は、がんになった緩和ケア医である私自身の体験記だ。現在、私はステージ4の大腸がん患者である。ステージ4である以上、がん死する可能性は高く、いずれ皆様とお別れする日が来るだろう。
だからその前に、私がどんな体験をしたのか、何を考えたのか、そして、これからどうしたいのかについて、率直に書き述べていきたい。
がん患者さんやご家族にとっては、本書を読み、つらい思いをさせる部分もあるはずだ。だが、事実を通して未来を語るためには、避けて通れなかった。お許しいただきたい。
今年で75歳になる私は、およそ30余年間、緩和ケア医であることに、自信と誇りをもって活動してきた。そしてその間、疑問を抱き、時折、書籍や講演などで指摘してきたことがあった。
だが、自分ががんの当事者になることで、疑問の指摘だけで満足していた自分の怠慢さに気づかされた。その疑問とは、私がその人生の最期を同行させていただいた、多数のがん患者さんたちの闘病経過を通して、考えていたことだ。
つまりそれは、我が国におけるステージ4(最も進行した段階)の固形がん(固まりを作るがん)の患者さんに対する、がん治療の在り方のことである。
私は今、自分の怠慢さを悔やんでいる。大切なことは、疑問を指摘するだけではなく、その疑問に対する解決策も提案することだったのだ、と。結果として私は、その疑問と考えていた状態を容認し、改善できたかもしれない状態を放置していたことになる。それらのことについても、既に亡くなっている多くの患者さんへのお詫びと鎮魂の想いを込めて記述した。
その中で、現状のステージ4の固形がんに対するがん治療への疑問を、ストレートにぶつけている。だから、がん治療に真摯に取り組んでいる医療者の皆様を、不快にさせる部分も多々あるに違いない。だが、それもまた、より良い未来を拓(ひら)くためには避けられぬ記述だった。ご理解いただければ、と切に願う。
さて冒頭で私は、ステージ4の大腸がん患者であることを皆様にお伝えした。大腸がん切除術後に、再発予防目的で抗がん剤を半年ほど服用したが、過酷な副作用後に待ち受けていたものは、両側肺の多発転移だったのだ。
主治医からは当然のように、ステージ4の大腸がんに対する標準治療である、新たな抗がん剤治療を提案された。だが、日常が壊れるほどの副作用を体験した私は、治癒を前提にはできない、さらなる抗がん剤治療を受ける気持ちには、どうしてもなれなかった。
だが、がんは増殖しなければ、すぐに命に関わることはない。今は、そのがんに少しでも大人しくしていてもらいながら、できる限り、がんと共存し、お別れする日を先に延ばしたい、と願っている。やらねばならぬことは山のようにある。
そのために、まずは私自身の身体を実験台にして、少しでも穏やかに、がんと共存でき得る方法を探し求めてみた。結果、既存の代替療法を組み合わせて、標準治療としての抗がん剤治療は選択したくないステージ4の固形がん患者さんの役に立ち得る、副作用の少ない、高額ではない治療法である「がん共存療法」という基本形に辿り着いた。本書では、その経過を報告したい。それが普遍化できそうであれば、皆様と共有させていただきたい。
そうすることが、多くのがん患者さんの人生に同行しながら、大切なことを怠慢にも見過ごしてきてしまったことに対する、償いでもあり、遅まきではあったが、教えていただいたことに対する、ご恩返しでもある、と考えている。
そして、それらが、これから同じような体験をすることになる多くの患者さんたちにとって、その状況を生きるヒントになれば、うれしい限りだ。
以上のような想いで、本書を世に出すことにした。代替療法に関して皆様から、特に医療現場の皆様から、「山崎、お前もか!」といった、落胆や、嘲笑、侮蔑の声をいただく部分もあるだろう。それは覚悟のうえで提案させていただいた。
今の私は、ステージ4の大腸がんの当事者になって、ようやく気がついた私の人生最終章の役割を果たしたい、と願うだけなのだ。最後までお読みいただければ幸いである。
なお、本書で使用する「固形がん」という表現は、肺がん、大腸がん、胃がん、肝臓がん、すい臓がんなどの、固まりを作るがん(胚細胞腫瘍、絨毛(じゆうもう)がんを除く)を意味している。
また、本書は私自身の体験に基づくステージ4の固形がんに対する、標準治療である抗がん剤治療のあり方や、それに代わり得る治療法についての考察である。
多くの患者さんにとって有益な情報になることを願っているが、その情報の有益性を担保するために、まず私がなすべきことは、本文で詳述する「がん共存療法」のエビデンスを求めることだ。
そのため、当分の間「がん共存療法」の対象は、肺や肝臓に転移のあるステージ4の大腸がん患者さんで、標準治療としての抗がん剤治療は選択したくない、事前に登録された30名前後の方を中心に行いたい。そして、その効果を確認したいと考えている。
ゆえに、前述の対象患者さんで「がん共存療法」を希望される方には、「がん共存療法」施行中は他の抗がん治療はせずに「がん共存療法」のみしていただくことになる。
さらに、「がん共存療法」は、現時点では、効果不明な試験的治療であることも、事前に了解された方のみに参加していただきたいと考えている。その他にも、「がん共存療法」への参加条件はいくつかあるが、本文を参照いただきたい(167ページ)。
上記の条件は、私が提案する「がん共存療法」をすぐにでもと期待される患者さんやご家族には、まことに申し訳ないが、がん治療の専門家の皆様から、エビデンスがない怪しげな治療と一蹴されることなく、むしろ、協力し合って、がん患者さんたちの人生に少しでもお役に立てればと、考えてのことである。ご理解とご協力を心よりお願いしたい。
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