【初心者でもわかる決算書の読み方】専門家が図解でわかりやすく解説 「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュ・フロー計算書」

ニュース

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク


決算書を理解するコツとは?(写真はイメージ)

慣れないうちは数字の羅列にしか見えない「決算書」。「あの会社はなぜ強いの?」「どんな戦略なの?」「儲けの仕組みは?」など、就職・転職時の企業評価や株式の銘柄選びなどにも役立つ決算書の読み方を、経営分析・経営財務を専門とする矢部謙介教授が解説。

今回は初めての人でもわかるよう、「貸借対照表(B/S)」「損益計算書(P/L)」「キャッシュ・フロー計算書(CF計算書)」という3つの基本財務諸表の読み方を紹介します。

※本記事は『見るだけで「儲かるビジネスモデル」までわかる 決算書の比較図鑑』(矢部謙介)の一部を抜粋・再編集したものです。

■決算書で何がわかるのか

新聞や雑誌の記事などの定性的な情報だけでは、会社の“本当の姿”を理解することはできません。決算書のような会社の数字(会計の数字)と定性的な情報を組み合わせることによって、はじめて会社の実態を読み解くことができるようになるのです。

投資を行なう場合でも、決算書は有益な情報を与えてくれます。この会社はどのようにして利益を上げてきたのか、どのようにして成長を実現してきたのかといった点を分析することによって、今後の収益性や成長性を占う材料にできるからです。

■苦手意識を克服するコツ

しかし、このように、決算書を読むことができれば役に立つことがわかっているのに、なかなか読むことができるようにならない理由は何なのでしょうか?

1つには「決算書を読む面白さ」がよくわからないからだと考えています。決算書を読む目的は、会社の本当の姿を浮かび上がらせることです。定性的な情報だけではわからないことがわかるようになるということは、本来とても「面白い」はずです。

その面白さを実感するには、とにかく多くの決算書を読み込むことが有効なのですが、慣れるまでは時間がかかります。これでは、なかなか先に進まず、嫌になってしまうでしょう。

そこで、おすすめしたいのが“決算書を図解して読む”という方法です。図にすれば、ひと目でその構造を理解でき、その会社がどのようにして「儲かるビジネスモデル」をつくり出しているのかがわかります。

また、同業に属する複数の会社の決算書を比較することで、各社の共通点や類似点、相違点、あるいはビジネスモデルの独自性などもわかります。コツさえつかめば、決算書を前にしてもひるむことはなくなるでしょう。

貸借対照表(B/S)…企業の戦略や経営方針を読み解く

まずは、貸借対照表です。英語表記のBalance Sheet〔バランスシート〕の頭文字をとって、B/Sとも呼ばれます。損益計算書(P/L)に比べて、B/Sはとっつきにくいという人も多いのですが、B/SにはP/L以上に企業の戦略や経営方針が表れます。まずB/Sの基本構造を理解し、苦手意識をなくしておきましょう。

B/Sには、会社がどのようにして資金を集めてきたのか、そして、その資金をどのように投資したのかが書かれています。このB/Sを読み解くには、図AのようにB/Sを金額と面積が比例するような図に変換するとわかりやすくなります。この図解を「比例縮尺図」と呼んでいます。


図A「貸借対照表(B/S)」

このように比例縮尺図に落とし込むことで、一見とっつきにくいB/Sを視覚的に理解できるようになるのです。

B/Sの右側に書かれているのは、会社がどのようにして資金を調達したかです。銀行からの借入金などの負債(いずれ返済や支払いが必要になるもの)と、純資産に分かれています。純資産は株主に帰属する資本であり、返済の必要はありません。

負債は、さらに流動負債と固定負債に分かれています。流動負債は、短期(多くの場合1年以内)のうちに支払いや返済が必要になるもの、固定負債は支払いや返済の期限が長期(多くの場合1年超)のものです。

純資産のセクションには、株主がその会社に直接投資したおカネ(資本金や資本剰余金)と、これまで会社が上げてきた利益のうち、内部留保(事業への再投資)に回した分(利益剰余金)などが示されています。

特に優良企業といわれるような会社の場合、利益剰余金が非常に大きくなり、その結果B/Sの右側において純資産の割合が大きく、負債の割合が小さくなる傾向にあります。これは、ここまでに上げた利益を内部留保に回すことで投資に必要なおカネをカバーすることができ、借り入れなどに頼らなくて済むからです。

B/Sの左側は、調達した資金の投資先を表し、流動資産と固定資産に分かれています。流動資産には短期(多くの場合1年以内)のうちに現金化される資産、固定資産には短期間での現金化を想定していない資産が分類されます。固定資産は、土地や建物などの形のある有形固定資産、ソフトウエアなど形のない無形固定資産、そして短期間のうちに売買することを想定していない投資有価証券などが含まれる投資その他の資産に分けられます。

無形固定資産を見るときに着目したいのが、「のれん」です。のれんとは、会社が買収(M&A)を行なったときの買収価額と買収対象会社の(時価ベースの)純資産の差額になります。

M&Aを行なったときの買収価額は時価ベースの純資産を上回ることが多いため、買収を行なった会社のB/Sの左側には、のれんが計上されます。買収対象会社の資産から負債を差し引いた価値以上に上乗せされた評価部分が、買収会社の無形固定資産のところに、のれんとして表示されているのです。したがって、多額ののれんが計上されているときには、過去に大きなM&Aを行なった可能性が高いのです。

損益計算書(P/L)…企業の利益構造を明らかにする

基本財務諸表の2つ目として取り上げるのは、損益計算書です。英語表記のProfit and Loss Statementの頭文字をとって、P/Lと呼ばれます。ここでは、P/Lの基本構造を理解しておきましょう。

P/Lを作成する目的は、1年間の取引を通じて得られた収益から費用を差し引いた利益を計算することにあります。P/Lに関しても、貸借対照表(B/S)と同様、比例縮尺図にして読むと理解しやすくなります。

P/Lを図解する際には、図Bのように収益項目(売上高、営業外収益、特別利益)を右側に、費用項目(売上原価、販売費及び一般管理費〔販管費〕、営業外費用、特別損失、法人税等)を左側に表示します。


図B「P/Lの基本構造」

そして、「収益-費用」がプラスならば当期純利益の金額を左側に、マイナスならば当期純損失の金額を右側に表示します。

営業外収益・費用、特別利益・損失の金額が大きくないのであれば、図の矢印の右側に図示したように、営業利益までを図解するとシンプルになり、よりわかりやすくなります。

図の右側には、収益の代表的な項目である、商品や製品、サービス を販売したことによる「売上高」が表示されます。左側に表示されるのは、商品や原材料の仕入れ、製品製造にかかった費用の「売上原価」と、売上原価以外に本業で必要となった費用である「販管費」、そして「売上高-売上原価-販管費」で計算される「営業利益」です(「営業損失」の場合は右側に表示します)。

この営業利益はその会社が本業で稼いだ利益ですから、ここまでのP/Lの構造を理解しておけば、その会社の本業での利益構造を読み取ることができるというわけです。

様々な会社のP/Lを分析していくと、会社の本業以外の経常的な活動から発生する収益や費用である「営業外収益」や「営業外費用」、その年限りの臨時の利益や損失を表す「特別利益」や「特別損失」に大きな金額が計上されているケースもあります。もちろん、その場合は図の左側のように、P/L全体を図解したほうがよいでしょう。

キャッシュ・フロー計算書(CF計算書)…現金の稼ぎ方と使い方がわかる

最後に、キャッシュ・フロー計算書(CF計算書)を取り上げ、その基本的な読み方をマスターしておきましょう。

CF計算書を作成する目的は、1年間を通じた現金の収支を表示することにあります。「勘定合って銭足らず」という言葉がありますが、これは、損益計算書(P/L)上は利益が出ていても、現金が足らなくなってしまっている状態を指します。しばしば、P/L上は利益が出ているにもかかわらず、倒産してしまう「黒字倒産」という事例がありますが、これは支払いに充てなければならない現金が不足するために起こります。

そこで、経営を分析するときには、支払いに必要な現金が十分足りているのか、現金をどのように稼いでいて、どのように使っているのかを読み解くことが重要です。CF計算書からは、こうした現金の動きを見ることができます。

CF計算書に関しても、貸借対照表(B/S)やP/Lと同様に、図解して読む方法が有効ですが、その形式はB/SやP/Lとは異なります。CF計算書を図解する場合、「ウォーター・フォール・チャート」にするとわかりやすくなります。

このウォーター・フォール・チャートは、期首に保有されていた現金が、営業活動、投資活動、財務活動のそれぞれによってどれだけ増減したのかを示すグラフです。

図Cは、CF計算書の基本構造をウォーター・フォール・チャートで示したものです。グラフの一番左は期首における現金残高、一番右は期末における現金残高であり、その間に営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)、投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF)、財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF)という3つのCFが示されています。


図C「CF決算書の基本構造」

1つ目の営業CFは本業で稼いだキャッシュを示しており、普通はプラスとなります。営業CFがマイナスの場合には、会社が本業でキャッシュを稼げていないことを意味しています。営業CFのマイナスが続いている会社は業績が良いとはいえないので、注意しなければなりません。

2つ目の投資CFには、投資に充てられたキャッシュが示されています。一般的に、成長率の高い成長期の企業では相対的に投資CFのマイナス幅が大きくなり、成長率の低い安定期の企業ではマイナス幅が小さくなる傾向にあります。成長期の企業では、事業を拡大するために大きな投資を必要とすることが多いからです。

また、営業CFと投資CFを足し合わせたものを「フリー・キャッシュ・フロー(FCF)」と呼びます。これは、営業CFから純投資額を差し引いたものに相当します。FCFがプラスであれば、必要な投資を行なったうえで、稼いだキャッシュを有利子負債の返済などに回す余裕があることを意味しています。

3つ目の財務CFには、資金調達や返済に伴う現金収支が示されます。この財務CFは、成長期の企業ではプラスに、安定期の企業ではマイナスになることが多くなります。成長期には成長投資のための資金が必要になるため、新たな資金調達が行なわれることで財務CFがプラスになるのに対し、安定期の企業はキャッシュリッチ(現金が潤沢)になるために、借入金の返済や株主還元にキャッシュが回される傾向にあるからです。

 ***

決算書を読む目的は、会社の“本当の姿”を浮かび上がらせることです。大切なのは、「決算書を実際の会社のビジネスの実態と結びつけながら読む」ということ。ここでご紹介した3つの基本財務諸表を押さえたら、あとは実践あるのみです。楽しみながら決算書を読む力(会計思考力)を身につけていきましょう。

矢部 謙介(やべ けんすけ)
中京大学国際学部・同大学大学院経営学研究科教授。専門は経営分析・経営財務。1972年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒、同大学大学院経営管理研究科でMBAを、一橋大学大学院商学研究科で博士(商学)を取得。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)および外資系経営コンサルティングファームのローランド・ベルガーにおいて、大手企業や中小企業を対象に、経営戦略構築、リストラクチャリング、事業部業績評価システムの導入や新規事業の立ち上げ支援といった経営コンサルティング活動に従事する。その後、現職の傍らマックスバリュ東海株式会社社外取締役なども務める。著書に『武器としての会計思考力』『武器としての会計ファイナンス』『粉飾&黒字倒産を読む』(以上、日本実業出版社)、『日本における企業再編の価値向上効果』『成功しているファミリービジネスは何をどう変えているのか?(共著)』(以上、同文舘出版)などがある。

矢部謙介(中京大学国際学部・同大学大学院経営学研究科教授) 協力:日本実業出版社

日本実業出版社
2022年7月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

日本実業出版社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

株式会社日本実業出版社のご案内

ビジネス書、教養書、実用書を中心とした書籍を出版している日本実業出版社の公式サイト。新刊情報を中心に、読者のみなさまに役立つ本の情報をお届けします。また著者インタビューやイベントレポートなど、書籍にまつわるここだけの話を特集・記事にてお読みいただけます。