【話題の本】『絵巻で読む方丈記』鴨長明著、田中幸江・訳注

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■無常の世界、鮮やかに

鎌倉幕府の準公式歴史書というべき『吾妻鏡』はいま、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の〝参考書〟として大いに話題だが、ほぼ同時代を権力者側ではなく、別の角度から記した名著がある。「行く川の流れは絶えずして…」の冒頭でおなじみ、鴨長明の随筆「方丈記」だ。

江戸時代に制作された「方丈記絵巻」(三康文化研究所附属三康図書館蔵)は一般にはあまり知られていないが、方丈記全文と絵画17図で構成され、長さ14メートルにも及ぶという。前半は大火に地震、飢饉(ききん)や疫病に苦しむ地獄絵図のような都の様相を描き、後半は都会を離れて方丈(約3メートル四方)の庵を結ぶ、遁世(とんせい)者の穏やかな暮らしを表現している。美しい絵と現代語訳に助けられ、古典文学の世界がぐっと身近に感じられる。

長明が説くように、災害や庶民を顧みない政治など人の世はとかく苦しくむなしいが、多くを望まず足るを知れば、心安らかに生きられそうだ。「コロナもようやく収束の気配を見せているが、決して安穏と暮らせないこの時世に、何か読者に響くのではと考えた」と東京美術出版事業部。800年超の時を経たロングセラーには、汲(く)めども尽きない魅力と教訓が詰まっている。(東京美術・2530円)

黒沢綾子

産経新聞
2022年7月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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