『人口大逆転』
- 著者
- チャールズ・グッドハート [著]/マノジ・プラダン [著]/澁谷 浩 [訳]
- 出版社
- 日経BP 日本経済新聞出版
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784296113095
- 発売日
- 2022/05/23
- 価格
- 3,300円(税込)
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<書評>『人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小』チャールズ・グッドハート、マノジ・プラダン 著
[レビュアー] 森永卓郎(経済アナリスト)
◆労働力不足が招く物価高
この二十年、世界は低インフレの下で安定成長を実現してきた。しかし、今後は高インフレが襲うようになる。それは、中国やアジア諸国で急速に進む高齢化とグローバル化の減速が原因だというのが著者の主張だ。
世界貿易のなかに中国が入ってきたインパクトは、大きかった。安くて豊富な労働力を武器に世界の工場としての地位を確立したからだ。それは、中国から商品を輸入する先進国の経済にも大きなメリットをもたらした。物価が低位安定したからだ。ただ、著者は、国内の労働市場だけで物事を考えてはいけないと言う。国内で労働力不足になれば、賃金や物価は上昇する。しかし、安い賃金で物を作る国からの輸入品が入ってくると、実質的に労働力が増えたのと同じ効果が生まれて、物価は上がらなくなるのだ。
しかし、今後中国を含むアジア諸国では、急速な高齢化が進み、労働力が不足するようになる。そうなったら、先進国への輸出物価は上昇する。また、高齢者は生産をしないが、消費はするから、輸出に回せる商品が減ってグローバル化に歯止めがかかるのだ。
しかし、高齢化でインフレになるのなら、世界に先駆けて高齢化が進んだ日本が、なぜデフレなのかという疑問は、当然出てくる。著者もそのことは理解していて、その説明から本書を書き始めたという。著者が挙げる日本のデフレ要因は、日本も中国等からの低コスト輸入の恩恵を受けていたこと、バブル崩壊後の需要低迷下にあったこと、日本企業が海外生産を急拡大したことの三点だ。また、二十一世紀に入って、日本の生産年齢人口(十五〜六十四歳)は大幅に減ったが、労働力人口は、女性や高齢者の労働参加で、逆に増えていることも原因だろう。ただ、労働力率上昇にも限界があるから、日本も早晩インフレ経済に転換する可能性は高い。唯一考えられるデフレ要因は、AI(人工知能)やロボットが急速に労働者を代替することだ。それがなければ、著者の予測通り世界はインフレ社会に大転換するだろう。
(澁谷浩訳、日経BP・3300円)
<グッドハート> ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス名誉教授。
<プラダン> Talking Heads Macro(マクロ経済リサーチ会社)創業者。
◆もう1冊
グナル・ハインゾーン著『自爆する若者たち 人口学が警告する驚愕の未来』(新潮選書)。猪股和夫訳。