『テポドン 大阪ミナミの「夜」の歴史を変えた暴れん坊』
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「Nスぺ」で当局から反感も“伝説の半グレ”壮絶半生
[レビュアー] 沖田臥竜(作家)
テポドン―大阪・ミナミの夜を制した男を、人々はそう呼んだ。
すぐに手を上げる父親、両親の離婚、貧しい家庭環境。学校になじめなかった少年はカラーギャングやイベントサークルを経て、次第に夜の街で頭角を現していく。ついには社会問題化しつつあった「半グレ」の代表格として「NHKスペシャル」に出演し、「テポドン」の通り名とともに一躍、脚光を浴びることになる。本書はそんなテポドンこと吉満勇介氏が半生を綴った告白本である。
大阪で不良上がりの若者がヤクザとなり、名を上げていく最短ルートと言えば、今も昔もミナミと西成があげられるだろう。
煌びやかなネオンに人が群がるミナミ。弱肉強食を地でいく西成。時代が時代ならば、テポドンのような若者たちが、ヤクザ社会で一世を風靡していたとしてもおかしくはない。
だがテポドンが選んだのは、暴排条例により冷え切ってしまったヤクザ渡世ではなく“半グレ”の世界であった。そこで彼は、幼少期に形成された反骨心を遺憾無く発揮し、裏街道を駆け上がっていく。
だが、いつの世も裏街道の栄光は長くは続かない。いや、長く続かないからこそ、その一瞬の輝きが増すことになるのではないだろうか。栄光と虚無感の狭間で生きてきたテポドンは、そこで挫折さえも糧に変えてみせている。その姿に人々は、魅了されてしまうのだ。
テポドンは、「Nスぺ」の放送で当局をいたく刺激し、執拗な捜査の末に逮捕され、懲役1年2か月の実刑判決を受ける。まさに日本人が愛する浪花節のような人生。浪花節は歌うものではなく、聞くものだと言われるが、彼は自由を取り戻した後も、変わらず歌い続けている。
波瀾万丈の人生は、ハタから見る分には面白い。しかし彼はヒロイズムに陥ることなく、客観的な視点から冷静に当時を振り返る。丁寧な文面の奥底には、彼の足跡がしっかりと刻み込まれている。
確かに世間には、若さゆえの刹那的な生き様と映るかもしれない。だが、だからこそ、これからのサクセスストーリーが際立って見えてくるのではないだろうか。本書にはこれから先、彼のその後の物語を読んでみたいという衝動に駆られる浪漫さえも詰め込まれていた。
私も元裏社会の住人として、これまで様々な人間模様を覗いてきたが、ノンフィクションの面白さをまざまざと見せつけられた気がした。