『落語作家は食えるんですか』
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江戸・明治期の古典を模した擬古典落語の創作者のつぶやき
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
【擬古典落語創作論】と銘打ってあります。擬古典とは何か? 著者は「古典落語の世界観・了見から作られた、江戸から明治の頃を舞台にした新作落語」のことと定義しています。つまり古典落語らしく見せたもの、ということです。
落語ファンが落語を聞きます。古典落語にも造詣が深いつもりでいたが、はて初めて聞くこの落語は何という演題だろう? そう思わせたら勝ちというのが擬古典と言ったら概念がおわかりいただけるでしょうか。
コロナ禍で中断があるものの、著者はこれまで鎌倉殿ではありませんが、13人の落語家に26席の擬古典を提供してきました。幸い私も5席提供を受けているのですが、何とかものになりそうなのは1席のみです。
私も擬古典作りにチャレンジしましたが、5席作って今も高座にかけるのは1席のみで、客がまた聞きたいというレベルの噺を作るのは難しいのです。
本書のタイトルは、著者への最も多い質問からきています。現在、落語作家で食えているのは著者も言う通り、大阪の小佐田定雄・くまざわあかね夫妻ぐらいのものでしょう。
他にも落語作家はいますが、皆さんいずれも本業を持っており、著者もその例にもれず、落語作家は副業です。ではなぜ作り続けるのか。それはやはり作った擬古典が古典落語だと間違ってもらいたいからです。今を生きる落語作家が作ったものかと驚いてもらいたいからです。
賞賛されたい欲求はもちろんありますが、それに勝るのは創作の喜びです。プロに演じてもらう喜びです。そして後に続く人に繋げたい思いから、労多くして実り少い作業に没頭するのです。彼らに栄光をと願わずにはいられません。
携わる人が少ない仕事ですから、本書に多くの読者がつくとは思えません。しかしあとがきに安堵します。食えないとしつつ「幸せにはなれたようだ」と言っているのです。