<書評>『考証 鎌倉殿をめぐる人びと』坂井孝一 著

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考証鎌倉殿をめぐる人びと

『考証鎌倉殿をめぐる人びと』

著者
坂井, 孝一, 1958-
出版社
NHK出版
ISBN
9784140886793
価格
1,045円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『考証 鎌倉殿をめぐる人びと』坂井孝一 著

[レビュアー] 三田誠広(作家)

◆大河ドラマのガイドに

 この本の著者は大河ドラマの考証を担当している人で、ドラマを見ている視聴者に向けてのガイドブック的なものをという意図でこれを書かれたのだろうと思う。

 ドラマには三谷幸喜という作者がいる。脚本家は話を盛り上げるために、時には史実を無視して、大胆にフィクションを構築する。つまり歴史研究者から見れば、噓(うそ)っぽい話も織り込まれている。

 視聴者はそういう噓の部分があることも承知でドラマを楽しんでいるのだろうが、採り上げられることの少ないこの時代に注目して、実際のところはどうだったのかと興味をもつこともあるだろう。

 本書は通史ではなく、人物に焦点を当てたところが特徴で、ドラマを楽しんでいる人にとっては便利なガイドブックとなるだろう。ぼくも少し前に『尼将軍』という小説を書いたことがあるので、その時にこの本が手元にあればもっと楽に書けたのにと思った。

 現在放送されている大河ドラマは、半分以上が終わっている。だがこの時代は頼朝が死んでからがおもしろい。ここから先、幕府内に内紛が起こって、次々に主要人物が死んでいくことになる。

 二代将軍頼家、三代将軍実朝、政子の妹の夫で頼朝の弟の全成。怪しい陰謀家の顔つきが魅力的な梶原景時、ひたすら善意の人と描かれている畠山重忠、元気いっぱいの和田義盛、みんな悲惨な最期を遂げることになる。その陰惨な局面を乗り切って権力者となる北条義時と、最後まで怪しい企てを続ける三浦義村の対決が描かれることになるだろうし、北条時政と牧の方の手の込んだ陰謀も楽しみだ。

 さらに承久の乱という大事件が起こる。幼帝が廃帝とされ三人の上皇が島流しになるという、前代未聞の政権交代が生じるだけでなく、三浦義村の弟や大江広元の息子が朝廷側に回るという骨肉の争いとなる。

 あまりにも登場人物が多すぎて、途中で話がわからなくなる視聴者もいるはずで、その時にこのガイドブックがあれば便利だし、何よりも歴史というもののおもしろさが伝わってくるはずだ。

(NHK出版新書・1045円)

1958年生まれ。創価大教授・日本中世史。『源頼朝と鎌倉』『曽我物語の史的研究』など。

◆もう1冊

坂井孝一著『承久の乱 真の「武者の世」を告げる大乱』(中公新書)

中日新聞 東京新聞
2022年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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