“カクヨムから生まれた新たな恐怖の語り部” 『走る凶気が私を殺りにくる』ができるまで 三浦晴海2ヶ月連続刊行インタビュー〈第2弾〉

インタビュー

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走る凶気が私を殺りにくる

『走る凶気が私を殺りにくる』

著者
三浦 晴海 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784049144116
発売日
2022/07/23
価格
770円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

“カクヨムから生まれた新たな恐怖の語り部” 『走る凶気が私を殺りにくる』ができるまで 三浦晴海2ヶ月連続刊行インタビュー〈第2弾〉

[文] カドブン

小説投稿サイト「カクヨム」に発表した作品が大きな話題を呼び、6月10日に『屍介護』(角川ホラー文庫)で書籍デビューを果たした新鋭・三浦晴海さん。7月23日には早くも第2作『走る凶気が私を殺りにくる』(メディアワークス文庫)が発売されました。三浦さんの素顔に迫る連続インタビューの第2弾は、戦慄のノンストップ・サスペンス『走る凶気が私を殺りにくる』の舞台裏に加え、三浦さんとホラーの関わりについてうかがっています。

取材・文=朝宮運河

▼ 三浦晴海2ヶ月連続刊行インタビュー〈第1弾〉はこちら
https://www.bookbang.jp/review/article/736740

“カクヨムから生まれた新たな恐怖の語り部” 『走る凶気が私を殺りにくる』が...
“カクヨムから生まれた新たな恐怖の語り部” 『走る凶気が私を殺りにくる』が…

■『走る凶気が私を殺りにくる』ができるまで。三浦晴海インタビュー〈第2弾〉

――『屍介護』から1ヶ月月あまり、早くも第2作『走る凶気が私を殺りにくる』が発売されました。デビュー作とは対照的に、こちらは現実的な怖さを追求したサスペンスですね。

1作目と2作目では、違うことをしたいという思いがありましたね。『屍介護』がゴシックホラー的な雰囲気のある作品だったので、2作目はもっと身近でリアルな怖さを書いてみようと。それで「リアルな怖さって何だろう」と考えているうちに、「車って怖いよね、あおり運転されたら嫌だよね」という発想が浮かんできて(笑)。

運転をされない方にはピンとこないかもしれませんが、車に乗っていて怖い目に遭うことってすごく多いんですよ。あおられたり幅寄せされたりという経験は、ニュースにならないだけで多くのドライバーがしているはずです。運転中のトラブルは誰もが当事者になりうる、身近な恐怖のひとつだと思いますね。

――主人公・芹沢千晶は介護タクシーのドライバーです。ある日、仕事先に向かっていた彼女の車に、真っ黒い大型のバンがクラクションを鳴らしながら接近。恐怖のドライブが幕を開けます。

シンプルなアイデアが中心にある作品が好きなんでしょうね。映画でいうと予告編を見ただけで、どんな話か伝わる映画というか。「走る凶気」のもとになっているのは、「正体不明の車に追いかけられたらどうする?」というアイデアです。それを最後まで面白く読んでもらえるように、次々に事件が起きるプロットを練り上げました。

――主人公が介護タクシーの運転手、という設定はどのように浮かんできたのでしょうか。

主人公を女性ドライバーにすることは、最初から決めていたんです。運転中に恐怖を味わう場面は、男性よりも女性の方が多いような気がしていたので。職業はタクシードライバーでもよかったんですが、隣に高齢者を乗せている方がスリルや危機感が増えるんじゃないかなと。最近は介護タクシーが走っているのをよく見かけますし、現代的な設定かなとも思います。

――千晶の車に同乗しているのは、特別養護老人ホームに入居する高齢者・龍崎善三。認知症を患っている彼は、黒いバンを運転しているのが「幽霊」だと口にします。

実際、最初は〝幽霊自動車〟のようなものに追いかけられる、というアイデアも考えていたんです。ただ今回は『屍介護』と違った種類の怖さを描こうと決めていたので、人間が運転していることにしました。「誰が追ってきているのか?」という謎を設定することで、ミステリー的な興味を強めることもできます。

――辛い過去を乗り越えて、ドライバーの仕事に向き合っている千晶のキャラクターが魅力的です。彼女を描くうえで、どんなことを意識されましたか。

これは『屍介護』も同じなんですが、大人の女性を書きたいなという思いがありました。いろいろな人生経験を積んだ、やや複雑なところのあるキャラクターです。それでいて前向きな気持ちを失わず、「いい人」であること。そういう主人公を書くのが好きなんだと思いますね。

――「西名阪自動車道」「京奈和自動車道」など、実在する道路が臨場感を高めています。

奈良、和歌山あたりはそれなりに土地勘があるんです(笑)。はじめは首都高とか東京近郊の道路を舞台にしようかなと思ったんですが、自分が走ったことのある道路の方がリアルに描けるような気がして。関西以外に住んでいる方にも、違和感なく読んでもらえればいいんですけど。

――高速道路と一般道を駆使して、千晶は黒いバンを振り切ろうとします。彼女の逃走ルートも、かなり緻密に考えていらっしゃるのでは?

Googleマップを使って、これだけ運転すればここまで逃げられる、というところは詳しくシミュレーションしています。高速道路は下道に降りられるポイントが限られているので、そこも気にしながら執筆しましたね。

――この小説がすごいのは、物語の大半が運転シーンだということです。それでこれだけサスペンスを盛り上げられるのか、と驚きました。

ありがとうございます。自分でも映画向きのアイデアだなと思うんですよね(笑)。あえて活字で表現する場合、小説ならではの面白さを盛り込まなければいけないだろうなと。そのためにミステリー的な要素を、『屍介護』以上に強くしています。たとえば幕間にあるエピソードの意味が、物語が進むにつれて分かってくるという構成などは、自分のミステリー好きの部分が出ていると思います。

――後半、いよいよ追い詰められた千晶が生き延びるために覚悟を決める、という印象的なシーンがあります。三浦さんの描くヒロインはかっこいいですよね。

ホラー映画に登場するヒロインは、逃げることが多いですよね。男性キャラクターが「戦う」という選択肢をとるのに対して、女性キャラクターはか弱いものとして描かれがちです。でも今の時代、女性だって逃げるばかりではないよね、と思うんですよ。困難に立ち向かう女性のかっこよさを描きたいというのは、『屍介護』にも共通する思いです。

――冒頭からラストの〝ダメ押し〟まで、恐怖と緊張感に満ちた作品ですが、不思議と読後感は悪くないですよね。

そこは私の好みなのかなと思います。ゾッとするような余韻は残したいんですが、わけが分からないまま物語を終えるのもいやなんです。最後まで読んでくれた方へのお礼じゃないですが、何が起こっていたのか、きちんと書き切って終わりたい。理解のできないホラーと、理解できて終わるミステリー。両方の面白さを盛り込めたらと思っています。

――『走る凶気が私を殺りにくる』の読みどころは、ご自分ではどのあたりだと思いますか?

「あおり運転を受ける」という現実的な恐怖と、「何に追われているのか分からない」というホラー小説的な恐怖でしょうか。
鋼鉄の塊が時速数十キロで追いかけてくる、という理解できない状況が、実はいつ自分の身に起きても不思議ではないことに気づいて、主人公の恐怖に共感してもらえたら嬉しいです。

――では、三浦さんがホラーというジャンルに惹かれる理由は?

それが、実はホラーが特別好きだというわけでもないんです。むしろ大の怖がりなので、できれば近づきたくありません……(笑)。怪談も眠れなくなるから苦手です。でも怖いからこそ気になって、観たり読んだりしてしまう。怖すぎるから気になって、もっと知りたいという気持ちが生まれてくるのかもしれません。

――なんと! 三浦さんは怖がりなんですね。そういえば『屍介護』のアイデアも、ある怖いものから生まれた、とおっしゃっていましたね(インタビュー第1弾参照)。

はい。基本的に自分が怖いと感じているものを書いています。自分が怖がるものを読者が同じように怖がってくれるかどうかはまた別問題ですが、世の中に怖いものがたくさんあるということは、ホラー作家として強みかもしれませんね(笑)。

――では、今後の抱負を聞かせていただけるでしょうか。

これからもホラー系の作品を中心に、書き続けていきたいと思っています。いくつか書きたい題材はあるので、それを今後作品にできればいいなという感じですね。カクヨムへの投稿と書籍化のお陰で多くの方に作品を読んでいただける機会が得られました。もっとクオリティを高めて、また「怖い! でも面白い!」と言ってもらえる作品を目指します。

――ありがとうございました。ますますのご活躍、楽しみにしています!

■作品紹介

“カクヨムから生まれた新たな恐怖の語り部” 『走る凶気が私を殺りにくる』が...
“カクヨムから生まれた新たな恐怖の語り部” 『走る凶気が私を殺りにくる』が…

走る凶気が私を殺りにくる
著者 三浦 晴海
定価: 770円(本体700円+税)
発売日:2022年07月23日

あおり運転? 殺人鬼? 追ってくるのは誰? 極限下のドライブホラー!
うしろから、あおり運転。
助手席に、認知症の老人。 

介護タクシー会社に勤務する芹沢千晶は、ある日、仕事中に後続車からあおり運転を受けた。
黒く巨大な車は獣のように荒々しく、車間を詰めてパッシングを繰り返す。助手席に認知症の老人を乗せる千晶は、次第に不安と恐怖を抱き始める。
何が気に入らないのか、何が目的なのか、ハンドルを握る手に汗がにじむ。やがて単なるあおり運転とは別の悪意を感じ始め……。
悪夢のような一日と、その果てに辿り着く恐るべき結末。

このドライブの結末は、誰も予想できない――。
極限下のドライブホラー!

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322201000090/

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“カクヨムから生まれた新たな恐怖の語り部” 『走る凶気が私を殺りにくる』が…

https://www.bookbang.jp/review/article/736740

KADOKAWA カドブン
2022年08月04日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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