【聞きたい。】島塚絵里さん 『フィンランドで気づいた小さな幸せ365日』
[レビュアー] 黒沢綾子
■当たり前ではない「尊さ」
「365日分のエッセーを書くことになり、不安もあったのですが、いろいろなアイデアが湧きだしネタには困りませんでした」
フィンランド在住15年。豊かな自然から発想したデザインを国内外の企業に提供するなど、テキスタイルデザイナーとして活躍。1児の母でもある。本書では教育、文化、暮らし、自然…と多角的視点から「小さな幸せ」をつづった。
国連の幸福度ランキングで5年連続1位を誇る同国だが、気候は決して穏やかではない。でも長い夜に家族でキャンドルを囲んだり、凍った海や湖の上で釣りやスケートをしたりと楽しみは多いそう。本場のサウナやクリスマスの様子はもちろん、働き方や夫婦の家事分担、子育てについても生活者目線で紹介している。
今夏、2年半ぶりに帰国した。コロナ禍の経験から日本でも「サステナビリティ(持続可能性)やワークライフバランスといった視点で、北欧の暮らしへの関心がより高まっているように感じた」と話す。
影を落とすのは、ロシアのウクライナ侵攻だ。ロシアと国境を接し、侵略された歴史もあるフィンランド国民にとって対岸の火事ではない。北大西洋条約機構(NATO)加盟に向けた政治の迅速な動きに、国民もおおむね納得、支持しているという。
「自分たちができることをと、(ウクライナへの)寄付をしたり、何かあったときのためにパスポートの取得を考える人も多いようです。今でも公共建築にはシェルターを作ることが法律で決まっているのですが、シェルターがこんなにたくさんあるのだと知り私も驚きました」
フィンランドに限らず、「小さな幸せ」は当たり前には存在しない。その尊さに改めて気付かされる。(パイ インターナショナル・1925円)
黒沢綾子
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【プロフィル】島塚絵里
しまつか・えり 昭和54年、東京都生まれ。津田塾大卒業後、沖縄で英語教員として働き、2007年にフィンランドに移住。マリメッコ社勤務を経て14年に独立した。東京・神田錦町のギャラリー「TOBICHI東京」で15~25日、「フィンランドで気づいた小さな幸せ展」を開催する。