<書評>『戦時下のノーサイド 大学ラグビー部員たちの生と死』早坂隆 著

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戦時下のノーサイド

『戦時下のノーサイド』

著者
早坂隆 [著]
出版社
さくら舎
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784865813494
発売日
2022/07/07
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『戦時下のノーサイド 大学ラグビー部員たちの生と死』早坂隆 著

[レビュアー] 満薗文博(スポーツジャーナリスト)

◆隆盛に至る道 克明に

 本書はまず、おおよその人が知る「ラグビーの起源」からスタートする。英国・イングランド中部「ラグビー校」でのフットボールの試合中、十六歳のウィリアム・ウェブ・エリス少年が、ボールを持ったままゴールを目指す「禁じ手」に出たことに端を発するというもの。

 続けて、日本でのラグビーのルーツ校が慶応大学であったことの歴史的背景が語られる。しかし、おとなしめの滑り出しは、ページをめくるごとに、熱量が高まり、それは「大河物語」に姿を変えていく。先人たちが、ラグビーを「日本のもの」にしていく過程が高い熱量を伴って語られ、克明に描かれる。楕円(だえん)球は、慶応から京都大学へパスされ、年を経ながら東大、早稲田、明治、同志社…など、現代でもおなじみの古豪への伝播(でんぱ)、隆盛に至る道が描かれる。

 そして、本書の軸足は、いつしか京都大学に置かれる事になる。これでもかと、克明に描かれる歴史の事どもは、資料、証言者などが豊富という言葉では足りないほどで、目を見張らされる。終盤を支配するのは、本著のタイトル通り「戦時下のノーサイド」で、第二次世界大戦下でラグビーはいかにしてパスをつなげ、ラガーマンたちはいかに生き、あるいは死んでいったかが描かれる。

 著者はかつて『昭和十七年の夏 幻の甲子園』でミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞しているが、くしくも私は現在、この賞の選考実務委員で、今回の巡り合わせに縁を感じるのである。

 『昭和十八年の冬 最後の箱根駅伝−戦時下でつながれたタスキ』も好著であるが、その一連の活動の先に、「大学ラグビー部員たちの生と死」の副題を持つ今回の本書が著されたのは必然だったのかもしれない。しかし、この人にはもちろん、スポーツ界だけにはとどまらない、いくつもの作品を持つ、ノンフィクション作家としての顔がある。これでもか、と深みに分け入った好著を、ぜひ手にしていただきたいと思う。

(さくら舎・1980円)

1973年生まれ。ノンフィクション作家。著書『永田鉄山−昭和陸軍「運命の男」』など。

◆もう1冊

日本戦没学生記念会編『新版 きけ わだつみのこえ』(岩波文庫)

中日新聞 東京新聞
2022年9月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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