<書評>『歴史をこじらせた女たち』篠綾子 著

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歴史をこじらせた女たち

『歴史をこじらせた女たち』

著者
篠, 綾子, 1971-
出版社
文藝春秋
ISBN
9784163915890
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『歴史をこじらせた女たち』篠綾子 著

[レビュアー] 大塚ひかり(古典エッセイスト)

◆周りを巻き込み、巻き込まれ

 自己評価が低く、人間関係を複雑化してしまう「こじらせ女子」ということばを作ったのは亡き雨宮まみだが、本書が取り上げるのは、歴史そのものをこじらせた女、何かの形で心をこじらせた歴史上の女たちだ。北条政子や小野小町といった有名人のほか、光仁天皇の皇女・酒人内親王、一条天皇の女御・藤原元子とその妹の小一条院の妻・延子といった、一般的には知名度の低い女たちを含めて二十八組三十三人が登場する。

 たとえば江戸時代の竹姫は、五代将軍徳川綱吉の側室の姪(めい)で、養女であったが、二人の許嫁(いいなずけ)に次々と死別。正室に先立たれた八代将軍吉宗が継室に希望するものの、六代将軍家宣の正室だった天英院の反対にあい、破談。吉宗の希望を斥(しりぞ)けた手前、婿探しに乗り出した天英院によって、島津継豊が候補に挙がる。時に竹姫十二歳。だが、島津家は竹姫が許嫁に次々先立たれたことなどを理由に縁談を渋り、竹姫に男子が生まれても島津家の跡継ぎにしないという条件で、ようやく縁談がまとまる……その後の竹姫と、彼女の果たした役割については本書を読んで頂きたい。 

 従来、悪女とされていた女性も登場する。孝謙天皇(重祚(ちょうそ)して称徳天皇)もその一人。著者が注目するのは有名な道鏡との関係ではなく、異母妹・不破内親王との確執だ。

 独自の切り口で歴史上の女たちに迫る著者の原点は、漫画による「人物日本史」。二十冊あったシリーズの中で女性は卑弥呼と紫式部だけだった。「取り上げられる女性がどうしてこんなに少ないのだろう」と子ども心にも疑問に感じた著者は、永井路子の『歴史をさわがせた女たち』に出会って衝撃を受ける。時は令和に移り、「歴史をこじらせた女たち」を書いてみないかと打診を受けた著者は、かつて歴史上の女性を描いた人物漫画をもっと読みたいと思っていた小学生時代の自身への一つの返事になればという思いで本書を書いたという。次作では、本書では取り上げられなかった卑弥呼や紫式部の登場を期待したい。

(文芸春秋・1760円)

1971年生まれ。作家。著書『青山に在り』、シリーズ「江戸菓子舗照月堂」など多数。

◆もう1冊

勝浦令子(のりこ)著『孝謙・称徳天皇 出家しても政(まつりごと)を行ふに豈(あに)障らず』(ミネルヴァ書房)

中日新聞 東京新聞
2022年11月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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