『男性中心企業の終焉』
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<書評>『男性中心企業の終焉(しゅうえん)』浜田敬子 著
[レビュアー] 森永卓郎(経済アナリスト)
◆格差ゼロへ 本気の企業
本書は、ジェンダーギャップの現状とその解消策を論じたものだ。著者は朝日新聞で『AERA』の編集長を務めた人だから、事実を正確にとらえ、企業で行われている格差解消に向けての豊富な事例に加えて、自らの職業経験をも赤裸々に語っている。そのため、雑誌を読むような感じで、すらすらと読破できてしまう。ただ、正直言うと、私は本書を読み進めるほど、楽しいというよりも、悩ましい気持ちが深まっていった。
私が社会に出た一九八〇年は、男女雇用機会均等法施行前だから、いまでは考えられないような女性差別が存在していた。私の同級生は、政府系金融機関の最終面接で、「君は、うちが女を採らないって知らなかったのかい」と嘲笑された。大部分の女性は、補助労働で、事実上「お嫁さん候補」とみなされていた。そうした時代と比べたら、男女格差が格段に縮小したことは事実だ。ただ、改善のペースがあまりにも遅すぎることも、本書の指摘する通りだ。日本のジェンダーギャップ指数の順位は、百四十六カ国中百十六位と、男女平等の面で圧倒的後進国になっているのだ。
一時期まで、私は世代が交代していけば、男女格差はなくなると思っていた。しかし、そうでないことに私自身気付いていた。私のゼミでは、ゼミ員だけによる選挙で、ゼミ長を決めている。ところが十六期生まで、ゼミ長はずっと男性が選ばれていた。私は今年、女性のゼミ長を強く望むとゼミ員に伝え、十七年目にして、ようやく女性のゼミ長が誕生した。
著者は、男女格差がなくなるまでは、女性優遇や数値目標が必要だと言う。男女差別の会社は、社員からも市場からも投資家からも見放されるからだ。本書を読めば読むほど、その主張が正しいことを確信させられる。私は、もともと性別で人を分けることが大嫌いだ。ただ、そんな態度では、ジェンダーギャップはなくならない。何をどこまでやればよいのか、悩みは深まるばかりだ。
(文春新書・1078円)
ジャーナリスト。元朝日新聞記者。2022年、一般社団法人デジタル・ジャーナリスト育成機構設立。
◆もう1冊
安藤優子著『自民党の女性認識 「イエ中心主義」の政治指向』(明石書店)