氷河期世代の深い怒りと慟哭が滲む 日本政治が抱える構造的課題への提言

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沈鬱の平成政治史 なぜ日本人は報われないのか?

『沈鬱の平成政治史 なぜ日本人は報われないのか?』

著者
倉山 満 [著]
出版社
扶桑社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784594093037
発売日
2022/09/27
価格
935円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

氷河期世代の深い怒りと慟哭が滲む 日本政治が抱える構造的課題への提言

[レビュアー] 渡瀬裕哉(国際政治アナリスト)

 著者の憲政史家・倉山満氏の特徴は、話し言葉に近い軽快なトーンで難解な内容を分かりやすく伝える点にある。また、文中に何度も挿入されるシニカルな人物評や鋭いメディア批判には、思わず苦笑させられる面白みもある。政治史というお堅いジャンルにもかかわらず、初学者にとっても取っ付きやすい作品と言えよう。

 本書は平成時代の政治家の権力闘争を扱った歴史書である。著者の豊富な政治知識と膨大な資料に裏打ちされた、さながら大河ドラマのような作りだ。

 各章において独特の語り口が政治家の生々しいエピソードを披露するたびに、テレビや新聞で見た政治家の顔や言動が記憶の底からよみがえる。また、平成時代にぶち上げられた様々な改革への期待感や昂揚感、そして後に冷や水を浴びせられた記憶まで鮮明に思い出される。若い読者にとっては、平成時代を臨場感がある形で追体験できる貴重な読書経験となることを保証する。著者の幅広い学際的な視座は、読者に好みの角度から平成時代を総括するきっかけを与えてくれるだろう。

 ただし、同時に「平成時代、私たちはどのような選択を行うべきだったのか」について、日本人に猛省を迫る内容にはゾッとさせられる部分もあることは予め伝えておきたい。

 本書の凄味は、政治家の経歴や言動に関する精緻な記述だけでなく、日本政治の本質に迫る構造的な課題が示されていることだ。例を挙げると、選挙制度、対米関係、参議院、政官関係、そして日銀人事などである。政治家が何を考えて行動し、何に気が付かず、そしてなぜ日本が衰退する道を辿ってきたのか、現代の栄枯盛衰の法則が整理されている。

 そして何より著者の日本の政治に対する深く静かな怒りを感じざるを得ない。軽妙な語り口の裏には、平成の就職氷河期に世に出た一人の日本人の慟哭が存在している。我々はこの歴史を繰り返してはならないと。

 やや暗い印象の書名にギョッとする人もいるだろう。しかし、本書に綴られた日本の政治構造への強い問題意識は本物で、我が国の政治改革に向けた熱い魂が込められている。本書は歴史的事実と情熱に裏付けられた、救国の提言でもある。

 倉山氏の口癖は「どうなるかよりもどうするか」である。読了後、読者諸氏の心の中にも日本の政治改革に向けた使命感が生まれているだろう。令和の時代に生きる我々が日本を再興し新しい時代を創る時である。

新潮社 週刊新潮
2022年12月1日霜降月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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