手本引き、大小、バカラ……最高のギャンブルは

レビュー

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未必のマクベス

『未必のマクベス』

著者
早瀬 耕 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784150312947
発売日
2017/09/21
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

手本引き、大小、バカラ……最高のギャンブルは

[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「賭け事」です

 ***

 世界最高のギャンブルは手本引きである、というのが私の長年の持論なのだが、「大小を除く」というただし書きをつけなければならない、と最近は考えている。「大小」とは、三つのサイコロの目の合計数が10以下なら「小」、11以上なら「大」。それを当てるだけのゲームである。このギャンブルを私はやったことがないのだ。沢木耕太郎『深夜特急』第1巻のマカオ編で主人公がはまってしまうギャンブルで、私も実際にやってみたらはまってしまうかもしれない。しかし未経験なので、ここでは「ただし、大小を除く」としておく。ちなみに、沢木耕太郎には、バカラを扱った『波の音が消えるまで』というすごいギャンブル小説がある。

 しかしそれは措いて、ここでは、早瀬耕『未必のマクベス』にスポットライトを当てたい。

 この長編の序盤に、マカオのカジノ・シーンが出てくる。そこで「ぼく」が初めて大小に興じるのだが、短いながらもとても印象深いシーンだ。この『未必のマクベス』は、要約と分類が難しい小説で、文庫本の裏表紙には「異色の犯罪小説にして、痛切なる恋愛小説」とあるが、たしかにそうとしか言いようがない。付け足すなら文体が心地よいことか。

 本稿の冒頭に記した手本引きとは、1から6までの数字の一つを親が選び、子がそれを当てるだけのゲームだが、興味のある方は阿佐田哲也『ドサ健ばくち地獄』を読まれたい。

新潮社 週刊新潮
2022年12月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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