『わたしは「ひとり新聞社」』
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<東北の本棚>町民目線 ぶれずに発信
[レビュアー] 河北新報
東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県大槌町で、2012年6月末から21年3月11日にかけて、著者は町民を対象とした「大槌新聞」を1人で定期的に発行し続けた。震災時に高台に逃れた際、古里へのいとおしさが込み上げてきた。その思いと震災時の情報不足の経験から、復興に向けた町民目線の新聞作りを決意する。地域紙の原点とは何かを問いかけてくる波瀾(はらん)万丈のノンフィクションだ。
潰瘍性大腸炎を患い、文章をろくに書いたことがない著者だったが、新聞を発行したい一心で取材から執筆、営業、経理まで全てを担当。被災した町民に必要な情報を分かりやすく伝えようと、病魔に屈することなく奮闘する姿が胸を打つ。
素朴な問題意識から被災地の光と影を浮き彫りにし、行政から疎まれることがあっても町民目線は揺るがなかった。13年4月にはタブロイド判4ページの新聞を町内全戸(約5100戸)に無料配布。読者から信頼できる情報源として支持されていった。大槌新聞の存在は、メディアの在り方に一石を投じたと言える。
著者は1974年生まれ。第3回東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞受賞。現在はオンラインでの講演、語り部活動、執筆などに取り組んでいる。
(沼)
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亜紀書房03(5280)0261=1980円。