<東北の本棚>町民目線 ぶれずに発信

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

わたしは「ひとり新聞社」

『わたしは「ひとり新聞社」』

著者
菊池 由貴子 [著]
出版社
亜紀書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784750517674
発売日
2022/09/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>町民目線 ぶれずに発信

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県大槌町で、2012年6月末から21年3月11日にかけて、著者は町民を対象とした「大槌新聞」を1人で定期的に発行し続けた。震災時に高台に逃れた際、古里へのいとおしさが込み上げてきた。その思いと震災時の情報不足の経験から、復興に向けた町民目線の新聞作りを決意する。地域紙の原点とは何かを問いかけてくる波瀾(はらん)万丈のノンフィクションだ。

 潰瘍性大腸炎を患い、文章をろくに書いたことがない著者だったが、新聞を発行したい一心で取材から執筆、営業、経理まで全てを担当。被災した町民に必要な情報を分かりやすく伝えようと、病魔に屈することなく奮闘する姿が胸を打つ。

 素朴な問題意識から被災地の光と影を浮き彫りにし、行政から疎まれることがあっても町民目線は揺るがなかった。13年4月にはタブロイド判4ページの新聞を町内全戸(約5100戸)に無料配布。読者から信頼できる情報源として支持されていった。大槌新聞の存在は、メディアの在り方に一石を投じたと言える。

 著者は1974年生まれ。第3回東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞受賞。現在はオンラインでの講演、語り部活動、執筆などに取り組んでいる。
(沼)
   ◇
 亜紀書房03(5280)0261=1980円。

河北新報
2022年12月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク