メンタル不調の原因は「つまずき」と「こじらせ」にあり。心の風邪への免疫力を高めるためには?

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メンタル不調の原因は「つまずき」と「こじらせ」にあり。心の風邪への免疫力を高めるためには?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

復職率9割の精神科産業医が教える マンガでわかる 休職サバイバル術』(加藤高裕 著、主婦の友インフォス)の著者は、精神科医として診療にあたる一方、複数の企業において産業医としても活動しているという人物。

特筆すべきは、会社の保健室へ相談に訪れる人たちがみな、「休職はしたくないんです」と口にするという事実です。「休職したらキャリアが失われる」「家族に心配をかける」「収入がなくなったら生活できない」など、多くの不安を抱えてしまっているのでしょう。

疲れ切った心を抱えながらも、なおがんばり続けようとする人と接するなかで、次第に、休職と復職の本当のところを伝えなければ、という気持ちが大きく膨らんできました。

会社には、万が一のときのセーフティネットがあり、セカンドチャンスもある。そう思えたら、つらくなったとき、がんばりすぎないで助けを求められるのではないか。

産業医も、そのヘルプラインのひとつです。(「はじめに」より)

つまり本書ではこうした考えに基づき、メンタル不調の原因にはじまり、休職発令から休職中、復職後の職場定着まで、それぞれの時期ごとに気をつけたいポイントや確認すべきこと、頼れるサポーターなどをわかりすく解説しているのです。

各章の冒頭では、ゲームデザイナーで漫画家のミヨシさんが実際に休職・復職を経験した方々への取材をもとにしたコミックを描き下ろしてくださいました。(「はじめに」より)

したがって、気軽に読み進めることができるはず。きょうは1章「なぜメンタルダウンするのか?」のなかから「メンタル不調を招く『つまずき』と『こじらせ』に焦点を当ててみましょう。

繊細で気がつきやすい人ほど、つまずきやすい

日々のストレスがメンタル不調にまで発展するには2つの要素が関わっており、著者はこれを「つまずき」と「こじらせ」と表現しているのだそうです。

「つまずき」とは、ひと言でいえば不安に対する耐久力です。

繊細でいろいろなことに気がつきやすい人は、多くの人が無視できるほころびを実際以上に大きく感じてしまったり、小さなトゲに引っかかって痛みを感じたりする傾向があります。(40ページより)

ある朝、同僚に挨拶をしたのに返事がなかったとしましょう。そのとき、同僚はイヤホンをしていて挨拶に気づかなかったのかもしれません。あるいは、アポイントのことで頭がいっぱいで、周囲のことが見えていなかったのかもしれません。

しかし、ここで「避けられている」「嫌われているのかも」という不安が持ち上がると、朝のその出来事がその日一日中、どんよりと心に暗い影を落としてしまうのです。

つまずきやすさは、「心の免疫力」とも表現できると著者はいいます。多少の失敗、ゴタゴタ、トラブルがあったとしても、心の免疫力が高ければ「どうにかなるでしょ」と受け止め、前に進むことができるはず。落ち込むことがあっても、一晩寝れば気分も持ちなおし、引きずることはないわけです。

ところが、免疫力が低いとそうはいきません。たとえば同僚や取引先の仕草やことばじりを敏感にとらえ、「面倒なやつだと思われている気がする」と心配したり、プロジェクトの軌道修正が必要になると「シミュレーションが足りなかったせいだ」と自分を責めてしまったりするのです。

しかし、そんなふうにあちこちで気持ちをアップダウンさせていたら、心が疲弊してしまっても無理はありません(きのう取り上げた「HSP(Highly Sensitive Person)」の人にあてはまりそうです)。(40ページより)

強すぎる自己愛が「こじらせ」の原因に

風邪をひいた場合は、暖かくして消化のいい食事をとり、ゆっくり眠るのがいちばん。

しかし、風邪気味なのに遅くまで残業し、週末はサーフィンを敢行したとしたらどうなるでしょう? それが原因で熱が出ても、「たいしたことない」といつもどおりの生活を続けていたら?

メンタル不調に陥る「こじらせ」は、風邪に対するこんな対応にも似ているのだそうです。

ストレスフルな状況にあっても、休息したり、ストレスを避けたりすることをよしとしなかった結果、心身の限界を超えてしまった状態が「こじらせ」です。拗らせによる傷は深く重くなりがちで、治療にも時間がかかるケースが少なくありません。(41〜42ページより)

なお、こじらせる原因のひとつとして、「強すぎる自己愛」が挙げられるのだといいます。自分の体力、能力、キャパシティを過信している人は、自分から助けを求められないもの。そればかりか、周囲のフォローや助言を拒絶しやすい傾向があるというのです。さらには、自己評価と周囲からの評価とのギャップに苦しむことも。

もちろん自分を愛することは大切ですが、過度に自分を甘やかしたり、実際以上に高い評価をするのは危険だということです。

また、周囲の支援を得られない状況が、こじらせを生む場合もあるようです。「孤立傾向の強い立場、職場でのポジション」「裁量の少ない仕事内容」「連続する偶発的な失敗体験」は、メンタルをこじらせやすいよう注意ファクターといわれているというのです。

たしかに、管理職になったり、子会社に出向したりしたことを契機に、それまで生き生きと働いていた人が急にメンタルダウンするというようなケースはあるもの。

裁量が少ない仕事、職種では、キャパシティ以上の仕事を任されて押しつぶされてしまったり、逆に能力が発揮できずに悩むこともあるでしょう。「いわれたとおりにやるしかない」と割り切ることができればいいですが、スパッと切り替えられない人だっています。

だからこそ、著者は次のように主張するのです。

こじらせによるメンタル不調を防ぐには、まず、自身のこじらせやすさを自覚すること。そして、「風邪のひきかけに無理をしない」ようにすることが重要です。(43ページより)

忙しい日常においては「まあ、大丈夫だろう」とやり過ごしてしまいがちかもしれませんが、とはいえ油断は禁物なのでしょう。(41ページより)

休職・復職の現実をさまざまな角度から伝えたいという思いから、経営者、休職保険の開発担当者、就労支援センターの代表、キャリア形成の専門家、大手企業の人事部長へのインタビューも収録。そのため、休職・復職の不安を抱える人にとっては非常に参考になる一冊だといえます。

Source: 主婦の友インフォス

メディアジーン lifehacker
2022年12月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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