「子どもたちが必要とする本を贈りたい」売上だけじゃなく社会貢献も……大阪の書店全体を巻き込んだプロジェクトの担当者が想いを語る

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本の未来と子供の未来を同時に考える

関西初のベストセラーを作り、出版界を盛り上げるだけではなく、社会貢献に繋がる活動も盛り込んだプロジェクト「Osaka Book One Project」が10年目を迎えた。

「大阪ほんま本大賞」を主催し、大阪の書店と取次店が「ほんまに読んで欲しい1冊」を選び、その本の販売で得られた収益の一部を社会福祉施設を通じて、大阪の子供たちに本を寄贈するというプロジェクトだ。

ただ本を寄贈するのではなく、子供たちのリクエストに応じて寄贈するというところもポイントとなる「Osaka Book One Project」について、プロジェクトを担当する実行委員が第10回「大阪ほんま本大賞」の受賞作の作者・高田郁さんを交えて、プロジェクトの意義と想いを語った。

 ***

座談会出席者
高田郁さん(作家)
堀博明さん(堀廣旭堂 代表取締役)
枡田愛さん(水嶋書房 くずは駅店)
久保昌弘さん(日本出版販売 関西支社)
細井泰藏さん(トーハン 東海近畿支社)

Osaka Book One Project誕生の経緯

――本日は「大阪ほんま本大賞」を主催するOBOP実行委員会のみなさんに、改めてその活動について伺いたいと思います。また、第一回および第十回となる今年の受賞者である高田郁さんにもご参加いただいておりますので、作家の立場からのご意見もお聞かせください。ではまず、OBOP誕生の経緯を教えてください。

久保昌弘(以下、久保):「Osaka Book One Project」、通称OBOPは2013年に発足しました。関西発のベストセラーを作り、関西の出版界を盛り上げようという趣旨だったんです。ただ、会議の中で本を売るだけでは面白くないなという声が挙がりました。ちょうど各エリアで「○○大賞」といった文学賞が創出された頃だったので、大阪としての独自色を出せないものかと。その結果、作品の選出だけでなく、社会貢献に繋がる活動をもう一つの柱にしていくことになりました。

堀博明(以下、堀):具体的には、大阪の書店と取次店が、大阪にゆかりがある「ほんまに読んで欲しい」と思う一冊を選び、半年間にわたってプッシュしていこうというものです。そして、その販売で得られた収益の一部を社会福祉協議会を通じて児童養護施設の子どもたちに本を寄贈する、という事業に当てています。特色は、寄贈する本は子どもたちからリクエストを聞いて選んでいることです。

――高田さんは第一回の受賞者として、そうした取組をどのように受け止められたのでしょうか。

高田郁(以下、高田):受賞の知らせを受けてまず思ったのが、OBOPって一体なんだろうと。でも、実行委員の方からお話を伺い、なんて素晴らしい取組だろう、と感心しました。大人たちは本のプレゼントというと課題図書などを考えがちですが、児童養護施設で暮らしている子どもたちが欲しいと思う本は別なんです。「受験期を迎えた子どもたちは先輩から譲り受けたぼろぼろの参考書や問題集を使っているし、小さな子どもたちが手にする図鑑もものすごく古い。だから、僕たちは子どもたちが必要とする本を、望む本を贈りたいんです」という説明を受けて背景にある思いを知り、協力させてほしいと思わずにはいられませんでした。

久保:OBOPの良さでもあると思いますが、受賞作の作家さんとその出版社さんにもご協力いただいて、一緒に活動させてもらっています。イベントなどにも参加いただいたりと時間を割いてもらうことが多いので、恐縮していますが……。

高田:いえ、OBOPの半年間は宝物のような時間でした。私は日頃表に出ることが少なく、書店さんや取次店さんの方々にはありがたいなと思いながらも関わることがなかったんです。でも、OBOPを通じて大阪の書店さんや取次店さんのそれぞれの顔がはっきりと見えた。私にとって大事な人がものすごく増えた気がしています。

細井泰藏(以下、細井):みんなが一緒になって活動するというのは、私にとっても大きな楽しみになっています。作家さんや出版社さんとの出会いや、会社や仕事の垣根を越えての繋がりなど、刺激を受けることばかりです。


店頭陳列コンクール1位

毎年工夫をこらした書店店頭での展開

――現場となる書店では店頭準備などもあって、また違った思いもあるのではないでしょうか。

枡田愛(以下、枡田):始まった当初は準備にあわてることもありましたが、最近はその年の受賞作をどう陳列しようかと考えるのも楽しみになっています。嬉しいのは、お客様にも浸透してきたなと感じることですね。特に「大阪ほんま本大賞」という名称になってからは、「今年も始まるのね」と声を掛けてくださる方もいるんですよ。

高田:第四回からですよね、「大阪ほんま本大賞」という名称を加えたのは。わかりやすさって大事ですよ。OBOPって何ぞやと思う人もいたでしょうからね、当初の私みたいに。それはつまり、中身が伴ってきたということ。そこに十年という年月も感じますし、それだけみんな頑張ってきたんだなぁ、と本当にありがたく思います。

――十年を振り返って、困難だったことや課題と感じることはありますか?

久保:OBOPのスタートは毎年7月25日なんです。この日から一、二か月の間はほぼすべての書店さんが店頭の一等地に本を置いてくださるんです。でも、新刊は目白押しで、書店さんも一番いい場所に置きたい本が次々に出てくるわけですから、受賞作品はちょっとずつ奥のほうになっていく。そうなると必然的に売り上げも鈍化していきます。それをいかに回避するか、その策を練る必要があります。

堀:子どもたちのリクエストに満足のいくよう応えてあげられるだけの売り上げを出さないといけないという使命感はありますよね。

細井:この10年の課題ですね。半年という長い期間、どうやったら一軒でも多くの書店さんに置いてもらうことができるのか。ここ数年は中押し企画をいっぱい練ってきましたが、もっと多くの書店さんにご協力いただけるよう我々実行委員は考えていかなければなりません。

枡田:特にこの2年は苦しかったですね。コロナの影響でまずお客様が来てくれない。というか、緊急事態宣言などもあって、そもそもお客様を迎えることができない状況だったので本当に厳しかったです。

堀:イベントもできず、作家さんと書店さんとの繋がりを持つこともできなかった。OBOPにとっては一番の困難だったかもしれないですね。

枡田:でも、今年は制限も緩和されたので私たちもやる気になっています。OBOPを通じて先生方と交流を持たせてもらうと、店頭でももっと大きく展開しようという気持ちになります。高田先生とまたご一緒できるのも嬉しい。

高田:再び選んでいただいて、ありがとうございます。欲しかった賞ではあるけれど、本当にもらっていいのかなとちょっと思ったんです。同じ作家が二度もらうことで、みなさんが9年かけて積み上げてきた信頼を損ねてしまうのではないかという怖さがあったので。でも、それでも受けようと思ったのは、やっぱりコロナでみんなしんどかったから。私にできることがあるのなら全力で協力したいと思っています。

久保:コロナ禍では、児童養護施設に宅配便で本を送らざるを得なかったのですが、それまでは60以上の施設に我々が分担して持っていってたんです。そのときに子どもたちが近くにいたりすると、「頼んだ本が来たぞ」って言いながら駆け寄ってくるんです。あの笑顔に出会える瞬間が、このプロジェクトを通して一番の喜びです。来年の三月は、以前のように子どもたちのもとに直接運びたいですね。

10年目を迎えてからの今後の展望

――では最後に、OBOPの今後の展望をお聞かせください。

久保:「Osaka Book One Project」と「大阪ほんま本大賞」、この二つは同義語のようになっていますが、僕としては「Osaka Book One Project」の中に「大阪ほんま本大賞」があると思っています。なので、新たな切り口を加えていきたい。「Osaka Book One Project」として、もっとできることがある、別の形でも社会貢献できるんじゃないかと考えているので、新たな事業の検討にも入れればなと思っています。

細井:もう一歩踏み出せたらもっと面白くなりそうですよね。「大阪ほんま本大賞」も更なる成熟を目指して認知を広めていきたい。書店さんにも七月二十五日は「大々的に販売せなあかん」と思ってもらえるよう結果を出していかなければと思います。

枡田:大賞作品を選ぶときって、新しい本に目が向きがちですが、いい本はいつ読んでもいいものなんだ、ということが伝えられるような作品も選べるようにしていきたいです。

久保:いい本はいつまでもいい。それ、いただきます!

堀:大阪ゆかりの本を大阪の書店が売る「大阪ほんま本大賞」ですけど、全国でも売ってもらえるような形にもっていきたい。いい本はいつまでもいいというのに通じると思いますが、日本中のみなさんに読んでもらえる価値があると思います。またそれが、子どもたちにたくさんの本を寄贈することにもなるはずですから。

細井:関西からベストセラーを出すという当初の思いにも繋がりますね。

高田:全国展開というのはすごく夢がありますね。私には「本で幸せにしてもらったので、本にかかわることで恩返しがしたい」との思いがありました。OBOPはそんな私の作家人生に、ひとつの指針を与えてくれたんです。取次店さんも書店さんも、作家にとっては、読者さんへのバトンを繋いでくださる大事な存在です。何かと不安な時代ですが、三者が心をひとつにすることで、次の世代のためになし得ることがきっとありますし、OBOPはその可能性を開いてくれたと思います。この素晴らしい取組が末永く続くこと、そしてその輪が全国に広がっていくことを心から願っています。

石井美由貴 協力:角川春樹事務所

Book Bang編集部
2023年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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