「薬味入れるって…」ひつまぶしの3通りの食べ方に異論 長濱ねるとふかわりょうが語る、ちょっとした違和感〈前編〉

対談・鼎談

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ひとりで生きると決めたんだ

『ひとりで生きると決めたんだ』

著者
ふかわ りょう [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103537922
発売日
2022/11/17
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ずっと会いたかった

[文] 新潮社


ふかわりょうさんと長濱ねるさん

 タレント・エッセイスト・女優として活動をしている長濱ねるさんと、お笑いタレントとして数々のバラエティ番組に出演し、「ROCKETMAN」名義での音楽活動、コラムやエッセイなどの執筆と幅広く活躍するふかわりょうさん。

 マルチに活動していること以外、もっとも遠い存在な気もするお二人だが、初対面にして意気投合し、「わかる!わかる!」の連発に。絶妙にシンクロし合うのはなぜか?

 ふかわさんのエッセイ集『ひとりで生きると決めたんだ』の刊行を記念して実現した対談にて、お二人が互いの共通点や普段感じる違和感を本音で語り合いました。(前後編の前編/後編を読む

ふかわりょう×長濱ねる・対談「重箱の隅に宇宙を感じる者同士」


長濱ねるさん

長濱 対談の最初からいきなりこんなことを言うのも僭越ですが、ふかわさんの著作を拝読するたびに、「わかる!!」と勝手にずっと共感していたので、今日はお目にかかれてとても嬉しいです。

ふかわ こちらこそ光栄です、ありがとうございます。2年前に出したエッセイ集『世の中と足並みがそろわない』を長濱さんがインスタグラムに投稿して下さり、そのことを知人から知らされてびっくりして。それが私も嬉しかったので、今回お話しできるのを楽しみにしていました。前作はなぜ手に取って下さったんですか?

長濱 『風とマシュマロの国』(幻戯書房、2012年)というアイスランド旅行記をきっかけに、ふかわさんの文章のファンになりました。

ふかわ え、本当ですか?

長濱 アイスランドにはもともと興味があったのですが、この本を読んでますます好きになって。今回の新刊のカバー写真は、「マシュマロ」なんですね。仰向けになると自分では起き上がれない、アイスランドの羊。

ふかわ そうなんです。長濱さんは読書家でいらっしゃるので、それで読んで下さったのかなと思っていたのですが、まさかアイスランドの方がきっかけだったとは……。今日はもう、こっち(新刊)の話はやめて、アイスランドの話をしましょうか(笑)。ちなみに、アイスランドへの関心はどこから生まれたのですか?

長濱 きっかけは音楽でした。シガー・ロスというバンドと、アウスゲイルというアーティストが好きで、他にもビョークやムームもよく聴くのですが、彼らがみんなアイスランド出身だということに、あるとき気がついたんです。

ふかわ そういう偶然ってありますよね。私も、「音」が好きだな、と感じていたアーティストたちが皆、スウェーデン出身だった、ということがありました。

長濱 それに、ナビゲーターを務めているMUSIC ON! TV(エムオン!)の「legato~旅する音楽スタジオ~」という音楽番組でアイスランドを特集したときに、国の歴史や風土について調べたところ、とても自由で、他人にあまり干渉しない国民性ということも知り、ますます興味が湧いて……。まだ行ったことはないのですが、いつか絶対に行ってみたい場所です。

ふかわ マネージャーさんや事務所には、その気持ちは伝えているんですか?

長濱 はい。でも、何回言っても、「アイルランドだよね」って間違えられちゃって(笑)。

ふかわ これは私の勝手な希望ですが、できればお仕事ではなく、最初は完全なプライベートで訪れて頂けるといいなぁ。それにしても、アイスランドに関心を持つ人ってそれほど多くないので、こんなに強い興味を示して下さったことにびっくりしています。旅行記を作った甲斐がありました(笑)。

肩書は「ふかわ」?


ひつまぶしの食べ方(画像はイメージ)

長濱 アイスランドのことももっとお聞きしたいのですが、新刊についても色々お話ししたいことがあって。先ほども言いましたが、前作のエッセイ集も、今回の『ひとりで生きると決めたんだ』も、共感するところがたくさんありました。例えば今作で特に印象的だったのは、「ワルツのリズムでまた明日」に出てきた、「ひつまぶし」のエピソードです。

ふかわ うわー、嬉しい! 「ひつまぶし」にスポットを当ててくれた感想、長濱さんが初めてです。

長濱 (1)そのまま食べる(2)薬味を入れて食べる(3)出汁をかけて食べる、と、ひつまぶしでは3通りの味が楽しめるというのが売り文句になっていますが、2番目の「薬味を入れる」って少し無理があるよね、との指摘には、「わかる!」と思わず声が出てしまいました。

ふかわ ついに、強力な味方が現れた! 一緒に立ち上がりましょう!

長濱 確かに、単に薬味を入れているだけで、食べ方は変わっていませんもんね。

ふかわ これ以上ない援護射撃に、感動すら覚えています。本の「はじめに」でも書いたように、私が関心を持つことは、世間一般の方のほとんどが気にしないことばかりで、そのせいか、「ふかわはいつも、重箱の隅を突いている」なんて言われることもよくあって。だから逆に言うと、長濱さんがアイスランドに興味を持つのは自然の流れというか、同じタイプゆえにアイスランドに行きついたと言えるのかもしれません。ちなみに、読んでいて理解できなかったところはありましたか?

長濱 全然なかったです。他にも共感することばかりで、気になった箇所をメモしてきたのですが……そうそう、「お笑い芸人」「タレント」「マルチタレント」など、どんな肩書きもどうしてもしっくりこない、というふかわさんの違和感は、私も同じように抱いているモヤモヤです。今から2年前、22歳頃までは、自分にピタッと当てはまる肩書きがないことにソワソワしちゃったのですが、最近は社会の変化もあるのか、肩書きがない人がすごく増えているように感じて、それで少し楽になれました。

ふかわ そこにも共鳴してくれたとは、本当に嬉しい。30年近く前のデビュー当時から私は、「長髪は芸人らしくない」「お笑い芸人がDJやるなんて調子に乗るな」「芸人に情報番組のコメンテーターなんてできるの?」など、「芸人らしくないこと」をするたび批判されてきたんですね。私自身も「らしくないこと」に多少の罪悪感もあって、「自分はいったい何者なんだろう……」というのがコンプレックスだったのですが、確かに時代の変化もあるのか、そんな「何者でもないこと」が、胸を張らないまでも、決してコンプレックスに感じなくてもいいことなんだなと、最近思えるようになりました。

長濱 有名なロックスターさんのように、“最後の手段”は「肩書きは、ふかわです」という記述や、自由に肩書きを作れるならば「へそ曲がリスト」が一番しっくりくる、というのには思わず笑ってしまいました。

ふかわ その肩書きも、「へそ曲がリスト」の「リ」を、ひらがなにするかカタカナにするかで何日も悩んで……。ちなみに、私のことを、へそ曲がりだと思いますか?

長濱 思います!

ふかわ でも自分ではその自覚はなくて、いたって「まっすぐだ」と思っているんです。

長濱 その気持ちもわかります!

ふかわ こんなにわかり合えると思いませんでした。もう、私のマネージャーより理解してくれています(笑)。

違和感の正体を掘り下げる


ふかわりょうさん

長濱 私も月刊誌でエッセイを連載させて頂いていて、書くこと自体はとても好きなのですが、毎月締め切りが近づくと、大抵、「今月も大きな出来事はなかった……うー書けない……」ってかなり苦しんでいます。旅行にでも出かけていれば別ですが……。ふかわさんはどんなタイミングでエッセイを書かれているのですか?

ふかわ 私の場合、前作も今作も、出版社から執筆の依頼をされたわけではなく、締め切りに合わせて書いたのではありません。それに、私が書きたいことは大きな出来事や特別なハプニングというよりも、日常生活でふとした時にひっかかって、胸の奥深くに沈んで溜まった小さな違和感という「澱み」を、少しずつ水に溶かして、文章にしているといった感じなんです。

長濱 なるほど。今のお話だと、私の場合、文章を書く時に少し構えてしまっているのかもしれません。というのは、エッセイを読んで下さるって、とても「能動的」な行為だから、「エッセイでは、正直でいなきゃ」って強く意識しちゃうんです。ちょっとでも格好つけたりすると、読む人に見抜かれちゃう気がして、それが怖くて。それに、素の自分は、世の中に対してちょっと斜に構えている部分があるのですが、それをストレートに出してしまうことへの恐れもあり……。

ふかわ 私も最初は、「ほとんどの方から見れば、重箱の隅を突くようなこと」ばかりを書き連ねることに、戸惑いやためらいがあったのですが、担当編集者の方が「大丈夫だよ、その視点は面白いよ、だから安心して見せていいよ」と背中をさすって励ましてくれたおかげで、ワーッと全部、吐き出すことができたんだと思っています。長濱さんの場合も、例えば、「自分に当てはまる肩書きが見つからない」という先ほどのモヤモヤを深く掘り下げていけば、あっという間に一編書けてしまうような気がしますよ。ちなみに、そういった「違和感」って、他にも何かありますか?

長濱 違和感とは異なるのかもしれませんが、ある番組の収録前、私が本番で課せられたある役割に緊張していたとき、周囲にいた方が、「長濱さんなら大丈夫、持ってる人だから!」と声を掛けてくれたことがありました。でも、結局私は本番で失敗してしまい、「ああ、やっぱり私は持ってないんだ」と、自分のスター性のなさを突き付けられたような気持ちになって、勝手に落ち込んで……。その方はもちろん、励ますつもりで言って下さったわけですから、本来、深く考える必要なんてないはずなのですが。

ふかわ 端から見たら何でもないところに起伏を感じ、葛藤している――完全にこちら側の人間ですね(笑)。でもそういう思考回路があるならば、やっぱり、「特別な出来事」に頼らずにエッセイを書けるんじゃないかな。

長濱 うーん……。もし万が一、その人がエッセイを読んだとき、無駄に傷つけてしまうかもしれないから、それも申し訳なくて。

ふかわ あー、それは全然気にすることないです。なぜなら、そういうタイプの人って、自分が発した言葉について、まったく何も考えてないから。きっと覚えてすらないですよ(笑)。

長濱 ありがとうございます。ちょっとしたカウンセリングみたいですね(笑)。

【後編を読む】「否定されたら、きっと致死量くらいの血が流れちゃう」長濱ねるが“裸の自分”を曝け出さない理由 ふかわりょうと語った本当の自分〈後編〉

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長濱ねる
1998年生まれ。長崎県出身。2015年にアイドルグループ「欅坂46」のメンバーとしてデビューする。グループ活動以外にも雑誌のモデルや長崎市観光大使を務めるなど、圧倒的な人気を誇った。2019年にグループを卒業した後は、タレントとしてTVやラジオなどで活躍、俳優としても多くの映像作品に出演し幅広い層からの支持を得ている。読書好きとしても知られ、雑誌「ダ・ヴィンチ」でエッセイを連載中。

ふかわりょう
1974年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学在学中の94年にお笑い芸人としてデビュー。長髪に白いヘア・ターバンを装着し、「小心者克服講座」でブレイク。後の「あるあるネタ」の礎となる。現在はテレビMCやコメンテーターを務めるほか、ROCKETMANとして全国各地のクラブでDJをする傍ら、楽曲提供やアルバムを多数リリースするなど活動は多岐にわたっている。著書に『世の中と足並みがそろわない』など。

新潮社 波
2023年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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