仏で愛されている清爽の気がみなぎる名作

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結ばれたロープ

『結ばれたロープ』

著者
ロジェ・フリゾン=ロッシュ [著]/石川美子 [訳]/フィリップ・クローデル [著]
出版社
みすず書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784622088813
発売日
2020/02/19
価格
4,180円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

仏で愛されている清爽の気がみなぎる名作

[レビュアー] 野崎歓(仏文学者・東京大学教授)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「雪山」です

 ***

 1941年に刊行されて以来、フランスで愛読され続けている小説だ。日本ではかつて1956年に『ザイルのトップ』という題で訳されたが、2020年、新訳により『結ばれたロープ』としてよみがえった。美しい山岳写真が多く含まれているのに誘われて読み出したら、最後までやめられない。

 パリ生まれの著者、フリゾン=ロッシュは17歳でひとりシャモニーに移り住み、プロの高山ガイドとなった。山を知り尽くす彼だが、本書を執筆したのはフランスがナチスに占領されていた頃、アルジェリアにおいてだった。

 はるかな雪山の純白を夢見て書かれたのだろう。全編に清爽の気がみなぎっている。

 登場するのはモンブランを間近に仰ぎ見て育ち、登山に魅せられた人物ばかり。山はつねに過酷な試練を課してくる。だが山男たちは、事故から命からがら生還してさえ「ここでは息がつまる。低すぎるんだ」と病室で涙を流す。彼らの一徹な情熱と自己犠牲の物語は驚きに満ちている。そして、美しくも非情な冬山の荘厳さが胸に迫ってくる。

 序文を寄せた人気作家フィリップ・クローデルは本書を30回も読み返したという。「自然を背景に利用しているのではない。自分はつねに自然におよばないと知って、自然に仕え、自然をたたえ、賛美しているのである」と彼は評する。雪山を目指す人たちの想いとは、必ずやそうしたものに違いない。

新潮社 週刊新潮
2023年1月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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