[特集] 第3回 高校生のための小説甲子園 優秀賞作品発表! 

インタビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

[特集] 第3回 高校生のための小説甲子園 優秀賞作品発表! 

[文] 神田法子(ライター)

第3回 高校生のための小説甲子園
優秀賞作品発表! 

第3回 高校生のための小説甲子園 優秀賞作品発表! 
イラストレーション=結布

恋愛、ファンタジー、冒険、ミステリー、時代もの……ジャンル不問のフレッシュなオリジナル短編小説を募集する高校生限定の文学賞「高校生のための小説甲子園」。応募者が通う学校の所在地により全国を7つのブロックに分けて予選を実施。予選通過原稿全7作品の中から、作家の湊かなえさんと集英社文芸・文庫編集部による選考の結果、第3回の優秀賞作品が決定しました。湊さんからの講評と優秀作品全文を掲載します。加えて、二〇二二年十月二十三日に実施された「湊かなえ先生による小説ワークショップ&本選」の様子や、参加された皆さんの感想コメントをお届けします。

湊かなえ先生
湊かなえ先生

優秀賞

東海・北信越ブロック代表
「まどろみの星」
展上茜(てんじようあかね)
(金沢大学人間社会学域学校 教育学類附属高等学校2年)

ブロック代表 7作品

北海道・東北ブロック
「驟雨祭(しゆううさい)」
阿部狐(あべこ)
(北海道札幌月寒高等学校3年)

東京ブロック
「月行鯨」
そらのくじら
(香蘭女学校 高等科2年)

関東(東京以外)ブロック
「雪合戦をしようよ」
藤原和真
(茨城県立竹園高等学校1年)

東海・北信越ブロック
「まどろみの星」
展上 茜
(金沢大学人間社会学域学校 教育学類附属高等学校2年)

近畿ブロック
「後ろ髪引き世の収集家」
坂上心純(さかうえこずみ)
(兵庫県立宝塚西高等学校2年)

中国・四国ブロック
「メルヘンケーキ」
高橋みゆう
(ノートルダム清心 中・高等学校2年)

九州・沖縄ブロック
「冬の晴れ空」
瀬良垣星(しらかちひかり)
(沖縄県立球陽高等学校3年)

[優秀賞作品講評]

選考委員 湊かなえ

 神視点で描く、人類がいなくなった広い視野での世界。限られた情報と少しの学習機能しか持たない、コードにつながれた狭い世界を生きる、人造人間「彼」の視点。その二つが混ざりあった描写をするのは、難度が高く至難の業ですが、うまく書くことができています。ただ、書き分けることを意識しすぎると、文章の継ぎ目に角のようなものが現れ、なめらかに読み進めるのを阻んでしまう。そういった箇所がいくつか見られます。
 人類がいなくなったあと、「この星は清々したのか、腹を抱えて笑うように、一度大きく地面を揺らした」という一文があるため(好きですここ)、地震などの大きな自然災害が起こり、街だった場所が荒廃したことは想像できるのですが、人類以外の動植物がどうなったのかということまではわかりません。枚数の限られた短編小説では、いさぎよく物語に関係しない事柄には触れない方が、テーマを伝えやすく、物語もきれいにまとまりやすいので、それでよいのかな、と思いながら読んでいましたが、後半、「彼」が詩を読む場面が出てきます。そこに「花も木も鳥も」とあるので、やはり、前半にそれに関する一行がほしかった、もしくは、詩の場面においてもこれらについては省き、人間の感情に焦点を当ててほしかった、と思いました。
 では、この作品のどこが一番よかったのか。それは、作者が「他者に向ける言葉」と精一杯向き合っていることが伝わってくる点です。一日の終わりに「お疲れさん」と声をかけてくれた相手に何と返すのがベストなのか。作者の提示した「では、おやすみなさい」や「よい一日となりそうです」は、センスがキラリと光る、といった特別なものではありません。しかし、現代の世の中は私を含め、人は当たり前の言葉で癒される、ということを忘れてしまいがちです。ささやかな言葉が心に火を灯してくれることを、この作品を通じて多くの人に思い出してもらいたい。そんなふうに私に思わせたことが、決定打となりました。
 おめでとうございます。

[リポート]

第3回 高校生のための小説甲子園
湊かなえ先生による
小説ワークショップ&本選

コロナ禍の二〇二〇年に始まった「高校生のための小説甲子園」。応募作品から各地方ブロックの代表を選び、本選を行って優秀賞を決める、まさに甲子園方式で行われる選考。しかし、第1回、第2回とコロナ禍の影響で代表が一堂に会することが難しく、第3回にしていよいよ全国代表の皆さんが集英社に集結することができました。満を持しての高校生による小説の競演です! 

構成=神田法子

午前中 課題の発表と講評

 まずは湊かなえ先生から集まった高校生へのご挨拶。第1回から選考委員を務め、今回初めて対面でのワークショップ&本選が実現した喜びを「第3回にして初めて北海道から沖縄まで、皆さんが集まってくれたことを心から嬉しく思っています。もうこの段階でこの賞は8割成功したようなものです。今日はリラックスして、小説についてためになる楽しい話をしていけたらと思います」と語られました。
 続いて自己紹介です。各ブロック代表が自分のペンネームとどう呼んでほしいかをプレゼンし合いましたが、ペンネームの由来や学校で呼ばれるあだ名などを織り交ぜたエピソードに笑いが漏れるシーンも。
 期待が高まる中、いよいよワークショップがスタート。あらかじめ各ブロック代表に3つの課題が渡されていて、それぞれの回答をプリントで共有しながら進めていきます。

〈課題1〉

あなたはりんご売りです。目の前にいる客に、それぞれの「りんご」を購入させる「売り文句」を考えてください。

A ひと口食べると死に至る「毒りんご」
B 食べた相手が最初に見た人を好きになる「惚れりんご」
C 甘くみずみずしい「りんご」

〈課題2〉

ブロック代表作品のそれぞれの「印象に残った一文」を抜き出してください。(自分の作品は除く)

〈課題3〉

あなたは編集者です。ブロック代表作品それぞれが書籍化された際の帯に書く一文(その作品を読者に届けるための一文)を考えてください。(自分の作品も、謙遜せずにトライする)

 作成者である湊先生から課題の意図の説明がありました。
「今回代表に選ばれた作品はレベルが高く、短編集として出版してもおかしくないほどです。ワークショップの課題は作品を読んでから考えて作るのですが、比喩の使い方や構成の組み立てなどは練習の必要がありません。でも、あともう一歩個性を活かしきれていない部分を、課題を通して気づいてもらえたらと思います。そのために作品を『編集者の目』で読み直しましょう」
〈課題1〉では、ブロック代表たちの解答をピックアップして湊先生が視点や表現の面白さを解説。最後に自身の解答も発表します。裏側の心理まで読み込み、相手の心の隙間に入り込むさすがプロと思わせる手法や効果の際立たせ方にみんな目を輝かせながら聞き入ります。
〈課題2〉では、編集者を「自分の武器を教えてくれる人」と定義し、編集者の目を養うためには他の人の文章のいいところを見つける練習が必要と説明。印象に残ったと意見が寄せられた自作の一文にラインマーカーを引き、作品のどの部分が注目されたかを一目瞭然にします。集英社の編集者と湊先生の選んだ一文と理由も発表。自分が力を入れた部分が伝わっている、意外な部分が評価されたなど発見があったようです。
〈課題3〉の帯文は本を読者に手に取ってもらう必殺技。みんなが自分の作品のために考えてくれた帯文の中から作者自身がベストを選んでいきました。
 最後に、作文の課題がその場で発表されました。お題は「財布」。原稿用紙2枚の短編小説を約1時間で書き上げます。各々、最後の力を出し切りました。

昼休み

 作文を書き終えたらお昼休みです。この時点で、みんなだいぶ打ち解けてお互いの創作の環境について話したり、作品について質問する様子などもちらほら。湊先生に作品の完成度を上げる“魔法の三行”をこっそり聞く人もいました。

午後 作文の投票と優秀賞・特別賞の発表

 今回、優秀賞は応募作品の中から決定。厳正なる審査の結果、第3回の優秀賞は東海・北信越ブロックの展上茜さんの「まどろみの星」が選ばれました。また「財布」をテーマにした作文は、短い執筆時間で完成度の高い作品が揃ったことに対し湊先生から賞賛が。こちらは各人が好きな作品に投票。最も票を獲得した中国・四国ブロックの高橋みゆうさんの「不器用な財布」に特別賞が授与されました。
 戦い終わった後は、普通の高校生に戻って、お互いの連絡先を交換したり、記念撮影をしてワークショップは終了です。

優秀賞・展上茜さん(上)と特別賞・高橋みゆうさん(下、左側)が表彰されました。
優秀賞・展上茜さん(上)と特別賞・高橋みゆうさん(下、左側)が表彰されました。

湊かなえ先生を囲んでの記念撮影。
湊かなえ先生を囲んでの記念撮影。

参加者コメント

先日は貴重な時間を提供してくださり、ありがとうございました。皆様と貴重な時間を過ごす中、普段は聞くことのないお話も伺えて、勉強になりました。特に、編集者の皆様が着目した文を知ることができたことと、物の特性を把握して伝えることの重要性を理解できたのは、自分だけでは学べなかった点であり、非常に感銘を受けました。湊かなえ様、集英社の皆様、重ねて申し上げますが、本当にありがとうございました。 阿部狐

今回は、このような会に参加させていただき、ありがとうございました。とても有意義な時間を過ごすことができました。人気作家である湊かなえ先生に講評をいただくという、大変貴重な経験をつめました。そして全国に、自分のように筆をとり、物語を書いている仲間、あるいは未来のライバルがいることも実感できました。優秀賞をいただくことができず悔しくもありますが、この経験を活かして、さらによい作品を書きたいと思います。 そらのくじら

作品集を少し捲り、皆さんの小説に圧倒されて、ああ受賞は無理だなと思いました。僕は、応募者の中で唯一の一年生なので。自信を持って、というよりは、皆さんの姿を見て「自分は一年後にこうなれるか」を考えるつもりで本選に向かいました。でも……やっぱり、悔しくて。受賞を逃したのもそうですけど、何より小説にかける情熱ですごく負けている気がしたんです。「一年後」なんて言い訳をしてないで、今すぐ作品と真摯に向き合いたい。そう強く思いました。 藤原和真

学校に文芸部がない私にとって今回のワークショップは大変貴重な経験でした。小説を書く同年代の高校生が集まる中、お題を出され執筆していた時間は、あっという間でしたが、今まで味わったことのない緊張と高揚がありました。高校生活を彩る刺激的な一日でした。ありがとうございました。 展上 茜

とても楽しく有意義な時間を過ごさせて頂きました。他のブロック代表選手の方々の作品の表現や文章構成、舞台設定などから新しく学ぶことも多く、物語を書くことに対してより創作意欲の湧いてくる貴重な経験ができました。その中でも特に、印象に残った一文をマーカーで抜き出すワークショップ内での作業が最も強く印象に残っています。力を入れて推敲を繰り返した部分よりも少し意外な一節に焦点が当てられていることが多く、この活動を通して読み手からの視点を初めてしっかりと意識できました。読んでくれた人の心により深く響く物語がつくれるよう、吸収できた内容をこれからの作品づくりにもたっぷり生かしていきたいです。 坂上心純

それまで小説を書いている人と話す機会がなかったので、小説を書いている同年代の人が集まったあの空間は新鮮で、少し不思議な気持ちになりました。話を聞く中で物語をさらに深く理解できたり、新たな発見があったりして楽しかったです。また、事前に出ていた課題の解説を聞いて、小説を読者から見て魅力的なものにする難しさに気づけました。学んだことを活かし、自分の武器を考えていきたいです。とても貴重で勉強になる経験でした。 高橋みゆう

集英社にいる時、私は自分の書いた物を読まれたのだという恥ずかしさと、小説を読む事も書く事も大して詳しくない自分の場違い感に耐えるのに必死でした。そんな中、一番心に残っているのは、帰り際に編集者の方々等が見送ってくれた時、出口の一番近くに立っていた方が笑顔で手を振りながら「小説書いてね」と言ってくれた事です。その日学んだ事、関われた人は、私にとっての東京の大部分であり、創作するという事へ前向きな意欲を湧き立たせる存在です。ありがとうございます。 瀬良垣 星

湊かなえ
みなと・かなえ●作家。
1973年広島県生まれ。2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞しデビュー。09年『告白』で本屋大賞、12年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門、16年『ユートピア』で第29回山本周五郎賞を受賞。その他に『カケラ』『ドキュメント』『残照の頂 続・山女日記』等著書多数。

構成=神田法子

青春と読書
2023年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク